日本において企業内教育が本格的に展開されるようになったのは、 第二次大戦後の1949年頃からです。この時代には豊富な労働力を全体的に底上げする基礎知識の習得や技能教育を中心とした研修が行われていました。高度経済成長期1960年代に入ると「量から質へ」という価値観に移り、技能教育から能力開発を目的とした階層別研修が整備されていきました。さらに1970年頃には組織開発教育が導入されるようになり、1990年のバブル経済崩壊後は終身雇用や年功序列が見直され、成果主義に基づくキャリア開発が増えていきました。そして2000年代にはグローバル化が一段と加速し、次世代のリーダー育成や理念浸透の研修の重要性が増えています(大橋健治, 企業内教育の変遷と今後の課題,2009)。
このように研修の歴史の変遷を振り返ってみると、企業に求められる研修は時代背景に大きな影響を受けるということがわかります。これからの時代に自社がどうあるべきかを見据え、そのために必要な人材像とその育成には研修がどうあるべきかを明確にした上で、毎年の研修を計画することが大切です。
それでは、そもそも企業が研修をすることにはどのような意義があるのかを確認していきましょう。
まずは組織全体の視点から見ると、研修の意義・目的は人材を育成することです。人材育成によって個人が成長することで業績を向上させ、ひいては組織全体の目標達成や成果の向上に繋げていくことが可能になります。また、研修によって組織の理念やビジョンが社員に浸透することで、組織への愛着が高まり離職防止に繋がる効果も期待できます。さらに手厚い教育研修を行っているということは、採用活動を進める上でも自社の魅力になります。
次に社員からの視点で見ると、研修で自分の知識・スキル・マインドを磨くことによって目標を達成したり、キャリアアップを実現したりすることで仕事への満足度が向上します。また、日頃は業務で忙しく自分の状況を振り返る時間が持てない社員にとって、研修は自分の現在地や今後の計画を見つめ直すための良い機会になります。
ここまで企業にとって研修とは何なのか、その意義・目的をご紹介しました。次に企業研修で伸ばす能力とはどのようなものがあるのかを分類して見ていきましょう。図1に示すように、大きく分けて一般能力と専門能力の2種類があります。
一般能力とはマインドセットとポータブルアビリティに分けられます。
マインドセットとはその人物の経験や教育、生まれた時代背景、先天的な性質などから形成される物事の見方や考え方を指す言葉です。信念や心構え、価値観、判断基準、あるいは暗黙の了解や無意識の思い込み、陥りやすい思考回路といったものもこれに含まれます。マインドセットは、○○マインドというようにどのような精神や意識の下に形成される考え方であるかを分類することができます。例えば、主体性マインド、相手視点マインド、挑戦マインド、目的マインドといったものが挙げられます。
ポータブルアビリティとは、業種や職種が変わっても通用する持ち運び可能な能力のことです(一般社団法人人材サービス産業協議会, ポータブルスキル活用研修)。例えばコミュニケーション能力や論理的思考力、マネジメント能力などがここにあてはまります。
専門能力とはテクニカルアビリティを指し、各部門および特定領域の業務に関わる上で必要となる能力です。例えば、営業力、ITスキル、マーケティングスキル、簿記といったものがあります。
図1:能力開発分類
それではこれらの能力を伸ばすための研修には、どのような種類があるのでしょうか。まず、企業における研修はOJT研修とOff-JT研修に大きく分けることができます。
OJTとは「On-the-Job Training」の略称であり、職場での実践を通じて業務知識を身につける育成手法のことです。経験豊富な先輩社員が新入社員・若手社員の側について実際の業務や技術を伝えることで、実践的に知識やスキルを身につけることができるのが特長です。
Off-JTとは「Off-the-Job Training」の略称であり、職場や通常の業務とは離れて研修のための時間を取って行う育成手法のことです。日常の仕事を進めながら学ぶOJTとは異なり、集中的に時間を取って体系的に知識を習得したり、指導者の違いによるバラつきを防止したりすることができるのが特長です。Off-JTは以下3つの手法に分類することができます。
①eラーニング・オンデマンド
eラーニングやオンデマンドとは、パソコンを使用してインターネット上でできる教育・学習形態のことです。IT技術を活用した教育システムで24時間いつでもどこでもアクセス可能であることから、社員が自由な時間や場所で自主的に学習を進める場合に向いている手法になります。
②集合型研修
次に集合型研修は、受講生全員が同じ時間・場所に集まって開催する研修です。講師と受講生が対面し、同じ空間に集まることによって一体感や程よい緊張感が得られます。また、講師への質疑応答や受講生同士のコミュニケーションも活性化しやすいという特長があります。特に実技を含む研修の場合にはその場で実践して講師からフィードバックをもらえるため、集合型研修が向いているでしょう。
③オンライン研修
オンライン研修は、マイク・カメラ、通信環境などを整えた上で受講生同士のPCをオンラインで繋いで開催する研修です。集合研修は全員が同じ場所に集まりますが、オンライン研修では受講生はどこにいても参加可能です。また、eラーニングは各受講生が異なる時間にアクセスして学びますが、オンライン研修では全員が同じ時間に集まって受講するという違いがあります。昨今の新型コロナウィルスによる環境変化やZoomなどのアプリケーションの普及によって需要が高まってきた新しい研修スタイルと言えます。
したがってオンライン研修はリモートワークや全国各地の社員も参加可能という特長があります。また、オンラインであっても対話を活性化するブレイクアウトセッションや学習の双方向化(チャット、アンケート機能、リアクション等)を取り入れることによって、集合型研修と同等以上の学習効果を生み出すことができるようになっています。
続いて、研修の効果性を左右する学習スタイルとして、受動的学習と能動的学習に分けることができます。
受動的学習とは、座学型の研修において講師が一方的に説明を行い、受講生が聞いて学ぶという学習スタイルです。受動的学習の場合、多くの知識をインプットできるという利点はありますが、受講生は「わかった」というレベルで満足しやすくなります。研修内では実践が不要なため、インプットした知識も記憶に残りにくかったり、自分に対する偏った認識をしてしまうこともあります。
一方で能動的学習とは、自ら知識をアウトプットしたり、スキルを実践したり、対話する中で学びを深め身につけていくという学習スタイルです。また、マインドセットについても実践によって正確な自己評価が得られます。例えば、自分は挑戦するマインドが高いと思っていたが、実践してみると阻害要因があることに気づくといったことがあります。相手に言われるのではなく自分の内側からの気づきを伴うため記憶に残りやすく、その後の行動変容に繋がりやすくなります。
したがって、実際の研修では知識のインプットだけではなく、能動的学習に繋がるような体験ワークやケーススタディ、ディスカッションと組み合わせるようにしましょう。
ここまで社員研修にはどのようなタイプがあるのかを確認してきました。企業では、新入社員や若手社員、中堅社員、管理職などの階層に合わせて教育内容が異なります。ここでは、階層別に具体的な研修の種類をご紹介していきます。
まずは、全社員に共通して必要な研修についてご紹介します。
①理念浸透研修
組織はその理念・ビジョンを実現するために存在しています。理念浸透研修では、会社の大切にする理念と社員一人ひとりが大切にする理念を明確にし、その接点を見出すことで帰属意識を醸成、組織全体の理念浸透を飛躍的に促進します。
②コミュニケーション研修
コミュニケーション能力は社内外の関係構築に必須となる能力です。コミュニケーション研修では、仕事で成果を出すコミュニケーションのコツを学び、ロールプレイによる徹底した実践的な習得を目指します。受講生が自分の癖を把握して改善するとともに、他者に適応して自ら主体的にコミュニケーションを取れるようになることを目指します。
新入社員は社会人としてのマインドセットや立ち居振る舞いを早期に身につけ、組織に適応することが重要になります。
①ビジネスマナー研修
ビジネスマナーはお客様との信頼関係を築く上で欠かせないものであり、習慣形成を図る必要があります。そもそもビジネスマナーは「なぜ重要なのか」「何のために行うのか」ということを確認し、一人ひとりが正しいビジネスマナーを実践するための動機付けを行います。挨拶、名刺交換、敬語、電話対応、メール対応などビジネスマナーの基礎をロールプレイを通じて学び、ブラッシュアップすることで第一印象がアップし、自信を持ってお客様と接することができるようになります。
②メンバーシップ研修
メンバーシップとは、組織やチームのメンバーが自分自身の役割を果たしながら協働し、組織やチーム全体に貢献することを指します。 組織として成果を上げていくためには、メンバーシップ力の向上が重要となります。研修内では行動を生み出すためのエネルギーとなる目標達成マインドの醸成、プレゼンテーションスキルや伝達力を向上させ、社員同士のメンバーシップを強化します。
③コンプライアンス研修
コンプライアンスとは、法律や条例、社会的規範、社内ルールなどの幅広い規則を守ることを指します。コンプライアンス遵守を強化するためには、「思考習慣」「行動習慣」「上司との関係性」の3つの変革が重要です。
若手社員とは、入社1年目~3年目までの社員のことを指します。仕事や職場に慣れ始め、様々な経験を積んでいる頃になります。現場の即戦力として活躍するためのスキルアップが重要になります。
①セルフマネジメント研修
セルフマネジメントとは自己管理を意味し、自分の健康状態や精神状態を安定させ、より良い状態になるよう改善を図っていくことです。研修内では自分の大切にする価値観や目指すべき方向性を明確にし、自己理解を深めることでモチベーションをコントロールできるようになります。また、良好な人間関係を築く方法を研修の中で学び、マネジメント下でチームパフォーマンスを上げていく能力を高めることができます。
②次世代リーダー研修
若手社員は次世代を担うリーダーとしての成長が期待されます。そのためには、リーダーに求められる責任感と当事者意識を醸成する必要があります。研修内では「リーダーシップの8つの原則」を理解し、組織の本質的な問題解決に対する意識を高めることができます。
③PDCA研修
PDCAサイクルとは Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善) の4段階を繰り返して業務を継続的に改善していく方法です。PDCAサイクルを習慣化し、主体的且つ効率的に業務を進めることができるようになると、社員の成長スピードは飛躍的に向上します。研修内ではPDCAサイクルを回すポイント、自主自立マインドを学ぶことができます。
中堅社員とは一般的に入社3年目以降で役職に就いていない社員のことを指します。社内では対象層が最も広く、一定の経験を積んでいることから、自分1人である程度の業務を遂行できる能力を持つ社員と認識されます。後輩の育成やチームのマネジメントなどの役割も任せられるようになるため、指導能力も身につけていくことが重要となります。
①フォロワーシップ研修
フォロワーシップとは上司やリーダーをサポートする力のことを言います。ただ上司やリーダーの指示に従うだけではなく、主体的にゴールに向かって行動することが重要です。フォロワーは5つのタイプに分類することができるため、研修内では自分がどのタイプのフォロワーなのかを認識し、フォロワーシップ向上のための改善ポイントを明確にすることができます。
②キャリアマネジメント研修
今後のキャリアアップを目的とした研修です。入社してから現在に至るまでの道のりを改めて振り返り、自分の資源の棚卸を行います。成功体験、失敗体験を研修中に振り返ることによって今までの行動パターン・思考パターンを自己認識し、自分自身の強み・弱みを改めて明確にします。その上で今後のキャリアプランを描き、実現するために必要なマインド・スキル・ナレッジについて学ぶことができます。
③OJT研修
中堅社員は新入社員の育成に携わる機会が多くなります。新入社員にとってOJTトレーナーはモデルとなる存在です。新入社員に関わる重要性を認識し、どのようなスタンスで向き合うべきかを研修を通して学び、新入社員のモチベーションを維持しながら育てるために必要なコミュニケーション、指導のポイントを実践ワークを通じて身につけます。
④メンター研修
メンター制度を導入している企業が増えていますが、メンターとは「良き指導者」「優れた助言者」を意味し、新入社員や若手社員の成長や精神面でのサポートをする人のことです。支援を受けるメンティーと信頼関係を構築し効果的な関わりをするためには、メンターがその役割と意義をしっかりと理解し、メンタリングスキルを研修で磨いておく必要があります。
管理職とは一般的に本部長、部長、次長、課長などの役職に就き、部下をマネジメントする立場にある社員のことを指します。管理職にはマネジメントスキルやリーダーシップの向上の他に、社員が働きやすい環境づくりや社員の業績評価のための知識も必要となります。
①リーダーシップ研修
マネージャーやリーダーとして必要な能力である「リーダーシップ」の定義と、リーダーシップを醸成する具体的な「8つの原則」について学び、組織に対する責任感・当事者意識を醸成します。また、成果を阻害する固定観念や思考の枠組みを見直し、組織のビジョン実現に向けてチームを牽引する秘訣を体験から学びます。
②コーチング研修
コーチングとは「答えはその人の中にある」という原則のもと、 相手が状況に応じて自ら考え行動した実感から学ぶことを支援し、 相手が本来持っている力や可能性を最大限に発揮できるようサポートするための コミュニケーション技術のことです(一般社団法人日本コーチ連盟)。研修では、部下のやる気と能力を引き出す5つのコミュニケーションスキルを身につけます。
③マネジメント研修
管理職は「目標達成」と「部下育成」を両立することが求められます。そのためには適切な支援のあり方や組織活性化を促すマネジメントスタイルを体得することが重要です。また部下をタイプ分けし、それぞれのタイプに合わせた効果的なコミュニケーション手法を学び、実践的な人材育成に繋げます。
④ハラスメント研修
ハラスメントのない職場づくりのためには、管理職の正しい理解が不可欠となります。また、ハラスメントを恐れて「物言わぬ上司」になってしまっている場合には、ハラスメントを引き起こす要因やリスクのないマネジメント手法を学ぶ必要があります。
⑤評価者研修
評価面談では部下を評価するだけではなく、部下の指導・育成ができる管理職層の育成が重要です。研修では人事評価エラーが発生する原因を押さえ、評価面談をシュミレーション実施することをおすすめします。評価者と部下、両者の立場を体験することで、効果的なフィードバックのスキルを身につけることができます。
社員研修は、企業の競争力を高める上で重要な人材育成の場です。これからの時代に自社がどうあるべきかを見据え、そのために必要な人材像と育成にはどのような研修を用意するべきかを明確にした上で、教育体系を見直すことが大切です。現在、研修のスタイルは集合型研修だけではなくオンライン研修を含めて多様な選択肢が設けられています。今回の記事では階層別に様々な研修をご紹介しました。社員の皆様には適切な研修を受講していただくことが重要です。各研修の具体的な内容をお知りになりたい方は、以下のボタンをクリックしてご確認ください。
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