昨今の人材不足と好景気を背景に、多くの企業が自社の人材育成に力を入れ始め、現在の研修業界は成長産業となっています。企業では、新入社員研修や営業研修、マネジメント研修をはじめとする多くの研修が実施されており、その対象も内容も様々です。では、そんな研修を効果的に実施する上での重要なポイントとは、一体なんでしょうか?そこで今回は、研修を設計・実施する上で欠かせない『研修目的』が持つ重要性と『研修目標』の具体的な設定方法をご紹介します。
研修目的とはなにか?目標との違いと設定方法を紹介
研修目的と研修目標とは
研修目的とは、参加者が研修で得た学びを実際に現場で活かすことであり、つまりは『行動変容』です。企業研修を実施するのは、参加者に現場の課題を解決してもらう、もしくは理想とする組織像を実現できる人材になってもらうためです。そして、それらを実現するためには、研修で学んだことを現場で実践してもらわなければ意味がありません。ですから、研修を実施する目的とは、参加者に行動変容が起こることとなります。そして、その目的を実現するためには、「誰に、どのような行動ができるようになってほしいのか」という目標の設定も欠かせません。
もし、こういった研修目的と研修目標が曖昧なままに実施された場合、「参加者の満足度は非常に高かったものの、研修で学んだことが現場に活かされていない」といった事態に陥る危険性があります。研修を行ったとしても、現場に活かされないのであれば、費用対効果としては低く、その研修は失敗だと言えるでしょう。目的である行動変容を起こすためにも、研修を実施する際には、その研修を行う目標を設計の段階から明確にしておくことが重要となります。
研修目的の達成に向けた目標設定①
では、研修の目標を設定するには、具体的にどのようにすればいいのでしょうか?そこで、研修の目標を設定する際に有効な3つのフレームワークをご紹介します。
まず初めに紹介するのは、カークパトリックの『4段階評価モデル』です。これは、アメリカの経営学者であるカークパトリックが1959年に提案したもので、世界的に定着、実用化されている評価方法です。4段階評価モデルでは、教育の達成度を4段階に分けて評価しており、「レベル1:Reaction(反応)」「レベル2:Learning(学習)」「レベル3:Behavior(行動)」「レベル4:Results(結果)」から構成されています。カークパトリックによると、教育はレベル1のReactionから始まり、レベル4のResultsに到達するものだとされています。では、それぞれのレベルについて解説していきます。
レベル1:Reaction(反応)
レベル1は、教育の内容に反応をする段階です。研修で言えば、参加者が内容に満足している、感動を抱いている状態がこれに当たります。このレベル1に到達しているかどうかを確認する方法としては、アンケート調査が挙げられます。
レベル2:Learning(学習)
レベル2とは、学習内容を理解し、知識として定着している段階です。研修で言えば、研修内容をしっかりと覚えられている状態がこれに当たります。レベル2に到達しているかを確認するためには、筆記試験やレポート、面談を通して確認することができます。
レベル3:Behavior(行動)
レベル3とは、学習内容を理解できているだけでなく、実際の行動のなかで実践できている段階です。研修で言うと、学んだ内容を現場に持ち帰って実践できている状態がこれに該当します。レベル3に到達しているかを確認するためには、自己評価以外にも、上司や同僚からの他者評価を通して確認することができます。
レベル4:Results(結果)
レベル4とは、学習した内容を活かして結果を出している段階です。研修で言うと、研修を実施した結果、企業の業績が向上することがこれに該当します。企業の業績を測ることで、業績がアップしたかどうかは判断できますが、それが研修のおかげか否かを突き止めるのが難しいため、レベル4への到達を確認するのは、難しいとされています。
研修を通して、どのレベルまで到達したいのかによって、研修の手法や研修後の調査方法も大きく変わります。満足してもらいモチベーションが上がればよいのか、知識の習得までしたいのか、行動の改善までしたいのか。研修の目標を設定する際には、4段階評価モデルのどのレベルまで到達したいのかを明確にするのがポイントとなります。
研修目的の達成に向けた目標設定②
2つ目のフレームワークは、『パフォーマンス』と『ニーズ』に基づいて研修の目標を設定する方法です。
パフォーマンスアプローチ
パフォーマンスアプローチとは、組織の持つミッションや戦略を達成するために、期待されるパフォーマンス(業績)を割り出し、そのパフォーマンスを出すために必要な行動を逆算する方法です。そして、パフォーマンスを出すために必要とされる行動を実践できるようになることが研修の目標になります。
ニーズアプローチ
ニーズアプローチとは、情報収集(ヒアリング・アンケート・サーベイ等)を通して現場の課題を見つけ、その課題を解決するために必要な行動を抽出する方法です。そして、ニーズアプローチによって抽出された行動を実践できるようになることが、そのまま研修の目標となります。
研修目的の達成に向けた目標設定③
3つ目は、『行動目標』『評価条件』『合格基準』の3つの観点で構成されるフレームワークです。それぞれの項目を明確にすることで、研修の目標を具体的に設定することができます。では、それぞれの項目について解説していきます。
行動目標
行動目標では、研修を学んだ結果として、何ができるようになったのかを行動ベースで明確にします。例えば、「挨拶ができるようになる」「企画書の作成ができるようになる」と言ったものが挙げられます。ただし、「○○を知る」「○○を理解する」といったような行動できているかが評価しづらいものは行動目標としては不適切です。
評価条件
評価条件では、行動目標を行うときの条件や制限を明確にします。例えば、「上司に確認しながら」や「マニュアルを見ながら」と言ったものが挙げられます。
合格基準
合格基準では、どの程度できるようになったら達成とみなすかの基準を明確にします。例えば、「上司評価で5段階中4以上の」や「誤差10%以内で」と言ったものが挙げられます。
行動目標・評価条件・合格基準の3つを用いて研修の目標を作成した場合、下記のようになります。
- 「週に4回以上、出勤時に自分から挨拶ができるようになる」
- 「月に2回以上、自分一人で企画書を作成し、上司に提出することができる」
関連記事:目標を達成するための6つのポイント
まとめ
研修の目標が明確になっていればいるほど、参加している社員も何が期待されているのかを意識しながら研修を受けることができるため、実際の現場を想定しながら学ぶことができ、目的である行動変容が起きるのに大きく役立ちます。また、研修が現場に活かされていることが明確になれば、研修に否定的な意見を持つ人や部署の見方も変わるかもしれません。もしこれから、企業研修を設計、企画、実施する方がいましたら、その研修目的と目標を改めて確認してみてはいかがでしょうか?この記事を通して、少しでも研修に携わる方の役に立てたならば幸いです。
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