従業員のモチベーションや定着率を高めるには、内発的動機づけに着目することが重要です。個人の願望を引き出す関わりを進めることで、各々が自分の意思で行動を起こすようになるため、長期的な成長も期待できます。
外発的動機づけもひとつの選択肢ですが、外からの刺激だけでは効果を持続させることは難しいでしょう。研修のベースを外発的動機づけから内発的動機づけへと変えることが、より効果的な人財育成へとつながります。
そこで本記事では、内発的動機づけと外発的動機づけの違いや、社内研修への導入事例をまとめました。内発的動機づけの重要性を理解し、今後の人財育成のヒントにしていただければ嬉しく思います。
内発的動機づけとは?外発的動機づけとの違いや社内研修への導入例
この記事のまとめ
- 内発的動機づけとは、「人は内側にある願望によって動機づけられる」という立場に立ったアプローチ方法のことである。
- 外発的動機づけでは、報酬の獲得や罰の回避を目的としているため、即時的な効果は得られる可能性があるものの、長続きしないというデメリットがある。
- 内発的動機づけにもとづいた社員研修を取り入れることによって「研修を受けさせられている」という義務感ではなく、主体的に学び、キャリアアップしていく人財を育成することができる。
内発的動機づけとは
内発的動機づけとは「私たちの行動は内側から動機づけられている」という考え方です。米国の心理学者であるEdward L. DeciとRichard M. Ryanが1985年に提唱したものであり1、自己決定理論の中では「基本欲求」と位置づけられています。
自己決定理論は元々、教育分野に関する理論ですが、従業員のモチベーションや生産性にも関わるため、近年ではビジネス面でも注目されています。
簡単に言い換えると、内発的動機づけは個人の欲求から生じるモチベーションであり、欲求の例としては、新しいことに挑戦する好奇心や探究心、興味・関心などが挙げられます。
内発的動機づけができている従業員は、義務感ではなく、使命感ややりがいを持って働きます。主体的に動くようになるため、業務の質やスピードが上がると同時に、達成感や幸福感を得やすくなると考えられます。
内発的動機づけが注目されている背景
内発的動機づけが注目される背景としては、経営環境の変化が挙げられます。
労働人口の減少や経済成長の鈍化などの影響で、日本では終身雇用制度が崩壊しつつあります。それに伴ってキャリア形成の在り方は多様化し、長期にわたって従業員を定着させる難易度が年々上昇してきました。
このような環境下でも、仕事へのやりがいや自身の成長を感じている従業員は、エンゲージメント(企業への愛着や思い入れ)が高まると考えられます。結果として会社への貢献意識が芽生えるため、スキルアップやキャリアアップに意欲的になる可能性が高いです。一方で、給与や福利厚生などで動機づけがされている場合は、さらに高待遇の企業を見つけて転職してしまうかもしれません。
つまり、優秀な人財の定着と成長を促すには、内発的動機づけを促すような施策が必要になってきているのです。
内発的動機づけと外発的動機づけの違い
内発的動機づけに対して、外側から刺激を与えて動機づけを行うことは「外発的動機づけ」と呼ばれます。分かりやすい例としては、昇給や福利厚生などの報酬や、上司からの指示・命令などです。
内発的動機づけと外発的動機づけには、主に次の違いがあります。
内発的動機づけのアプローチを取るか、外発的動機づけのアプローチを取るかによって、施策面やプロセス、従業員の行動がどのように変わるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
報酬の内容(行動の促し方)
通常、内発的動機づけを促す場合は、従業員の好奇心や探究心を刺激するような施策を行います。例えば、MBOのような目標管理制度を導入すると、従業員自らがスキルや役割を踏まえて目標を設定するため、義務感が軽減されます。このように、仕事を通して得られるやりがいや充実感、成長などは「内的報酬」と呼ばれます。
一方で、インセンティブなどの「外的報酬」や、失敗に対する罰などで行動を促すのが外発的動機づけです。従業員には「もっと報酬が欲しい」「ペナルティを回避したい」などの感情が芽生えるため、生産性の面では一時的な効果を見込めますが、仕事そのものに興味を持たせることは難しくなります。
2.目標設定のプロセス
内発的動機づけでは、一人ひとりの従業員が自身に合った目標を設定します。義務感が生じにくいため、スケジュールやタスクを個人で管理したり、課題に対する解決策を自ら考えたりなど、主体的な行動を促しやすくなります。その結果として、創造力や柔軟性、自己管理能力などの向上が見込めるでしょう。
一方で、外発的動機づけでは会社が設定した目標に対して、外的報酬や罰を用意します。報酬やペナルティ回避のために「会社の目標達成」が従業員の目的となり、それ以上の効果を得ることは難しくなります。
3.効果が現れる時期
内発的動機づけを促すには、従業員の内面に働きかける必要があります。単に目標管理制度を導入するだけではなく、あくまで従業員が主体となって考えられる仕組みや、周囲のサポート体制が必要になるでしょう。成功体験が必要になるケースもあるため、内発的動機づけの施策は中長期で取り組むことが重要です。
一方で、外発的動機づけは従業員から見るとメリット・デメリットが分かりやすいため、短期で効果が現れることもあります。例えば、明確なノルマとインセンティブを提示すれば、報酬を求める従業員はすぐにでも行動を起こしてくれるでしょう。
4.効果の持続期間
内発的動機づけに成功した従業員は、自身の行動によって欲求を満たすために、業務への取り組み方やキャリアプランを自ら考えます。また、目標の達成後には次の目標を掲げるようになるため、想定以上の効果が長続きする可能性もあるのです。
一方で、外発的動機づけによるモチベーションの刺激は、常態化によって慣れてしまうリスクがあります。特に、インセンティブを用意できなくなると、多くの従業員は会社の目標に関心を示さなくなるでしょう。そのため、外発的動機づけの効果は長続きしづらい傾向があります。
内発的動機づけを高める方法
自己決定理論を提唱したEdward L. DeciとRichard M. Ryanは、著書(※)の中で内発的動機づけを高める方法についても触れています。同著によると、内発的動機づけに関わるのは「能力(Competence)」「関連性(Relatedness)」「自主性(Autonomy)」の3つの欲求です。
それぞれどのような意味合いなのか、以下では欲求を満たす方法と併せて解説します。
(※)2017年発刊「Self-Determination Theory: Basic Psychological Needs in Motivation, Development, and Wellness」
能力(Competence)
自己決定理論における能力(Competence)は、十分な能力を習得しつつ、その能力を存分に発揮したいと感じる欲求です。有能性や有能感と訳される場合もあり「他者より優れている」「やればできる」などと自覚することで満たされます。この欲求を満たすには、従業員自身が成長に向けて行動を起こすことが必要です。どのような施策が考えられるのか、以下で一例を見てみましょう。
能力(Competence)を満たす施策の例
- 業務やキャリアアップに役立つスキルの習得を支援する
- OJT研修などで、繰り返して訓練できる場を提供する
- 個々の能力を把握し、適材適所の配置をする
前述したように、内発的動機づけへとつなげるには有能感を自覚させることが重要です。そのため、能力を習得できるよう支援だけではなく、同時に発揮できる場も提供する必要があるでしょう。適材適所の配置をする上では、他にも組織全体のリソースや業務を洗い出すなどのタスクが生じます。
関連性(Relatedness)
関連性(Relatedness)は、周囲の人間関係に対する欲求です。この欲求が満たされると、従業員は「他者とつながっている」「周りから関心を持たれている」と自覚するようになり、社会や集団への貢献意識が高まると考えられます。関連性の欲求を満たすには、主に会社の上司や同僚、家族、友人などと良好な関係を築くことが必要です。
関連性(Relatedness)を満たす施策の例
- 社内イベントなどでコミュニケーションを活性化させる
- 手軽にコミュニケーションを取れるツールやシステムの導入
- 休暇取得の促進など、ワークライフバランスの実現を支援する
家族や友人との人間関係については、企業側が直接サポートすることはできません。ただし、ワークライフバランスを実現するとプライベートに割く時間が増えるため、家庭や地域との関わり方が変わる可能性があります。社内外の人間関係に目を向けて、不安や悩みを抱えにくい環境を目指しましょう。
自主性(Autonomy)
自主性(Autonomy)は、行動を自分自身で決めたいと感じる欲求です。自由に行動するという意味ではなく、自らを律しながら主体的に判断・行動する欲求を指すため、「自律性」とも訳されます。自主性の欲求は、外発的動機づけだけで満たされることはありません。義務感や強制感が生じないように、外的報酬に依存しない施策を考える必要があります。
自主性(Autonomy)を満たす施策の例
- MBOなどの目標管理制度の導入
- 失敗を責めず、上層部や上司が責任を取る風土づくり
- 現場の意見を吸い上げるボトムアップ型組織への変革
従業員の主体的な行動を促すには、挑戦しやすい環境づくりが必要です。意見を排除したりミスを責めたりする風習が少しでも残っていると、従業員が起こせる行動には制限がかかります。形式的な制度では効果が見込めないため、上層部や上司との関係性に着目し、企業文化の変革にも取り組みましょう。
内発的動機づけの研修事例
内発的動機づけを促す研修では、個人の内側から湧き上がる願望を引き出すことがポイントです。その上で会社の価値観とのバランスを取らないと「研修を受けさせられている」といった義務感が生じてしまいます。
例えば、アチーブメントHRソリューションズがコンサルティングをした株式会社技研製作所様では、かつて軍隊式の合宿研修が行われていました。しかし、叱責や強制を中心とした研修は、モチベーションの低下や入社辞退につながります。
そこで同社は、内発的動機づけをベースにした研修へと一新するために、入社目的や成長願望を言語化するセッションを導入しました。この施策により、新入社員が願望と現状のギャップを把握し、自ら成長課題を正しく認識できるような環境を築けています。
株式会社技研製作所様に起こった変化
- 研修後の辞退者がいなくなり、内定者全員が入社した
- 以前は数ヵ月で研修の効果が薄れていたものが、長期的な成果を見込めるようになった
- 当初は研修形態の変更に反対していた既存社員も理解を示すようになった
特に、伝統的な研修を行っている企業は、新たな研修制度に不安を覚えるかもしれません。しかし、現場組織やその他社員にも意義がある内容にすれば、技研製作所様のように社内全体から共感を得られます。
アチーブメントHRソリューションズでは、各社の課題に合わせた研修コンサルティングを行っています。規模や業種に関わらず、さまざまな企業への導入実績がありますので、研修内容でお困りのご担当者様はお気軽にご相談ください。
内発的動機づけで効率的な人財育成を目指そう
短期的な成果を見込む場合は、外発的動機づけもひとつの選択肢です。ただし、外的報酬だけでは効果が限定的となりますので、長期的な成長や企業価値向上を目指す場合は、内発的動機づけに目を向ける必要があります。
従業員の内面に働きかけると、会社や仕事そのものへの関心を高められます。効果的な人財育成と定着率アップのために、内発的動機づけを意識した施策を考えてみましょう。新しい施策に不安を覚える場合は、専門家への相談も検討してみると新たな活路が見えてくると思います。
Footnotes
- アチーブメント出版株式会社「ビジネス選択理論能力検定 2級・準1級公式テキスト」 ↩