帰属意識はもういらない?帰属意識よりも高めるべき指標とは

帰属意識はもういらない?帰属意識よりも高めるべき指標とは

帰属意識の高い社員は、離職をすることなく、長く企業に勤め、貢献する貴重な戦力です。「企業戦士」などという言葉に代表されるように、会社のために力を尽くす重要な存在として多くの企業の成長を支えてきました。しかし、「人材確保」と「離職」という悩みを多くの企業が抱える近年、帰属意識という言葉を聞く機会は減り、「帰属意識はもういらない」といった発言も散見されています。
今回は、帰属意識が注目されていたそもそもの理由から、なぜ注目されなくなったのか、帰属意識に代わる指標として台頭する「エンゲージメント」とは何かについてご紹介いたします。

帰属意識とは

帰属意識とは、実用日本語表現辞典によると、「ある集団に自分が属している、その集団の一員であるという意識」のことです。この帰属意識は、企業や民族などさまざまな規模・単位について用いられます。この帰属意識が高い人は、所属している集団に対する愛着や興味・関心を持ち、その集団に所属したいという気持ちが強くなると言われています。反対に帰属意識が低い人は、その集団の中に自分の居場所がないと感じ、集団に対する愛着や興味・関心を失います。企業における帰属意識とは、今自分が所属している企業に対して、「所属していたい」という意識を持つことです。

なぜ、帰属意識が注目されていたのか

社員の帰属意識に注目が集まるようになったのは、長らく日本経済を支えてきた終身雇用や年功序列といった制度に、崩壊の兆しが見られ始めて頃からだと思われます。「良い会社に入れたら、その後はずっと安泰」といった安心は消え、転職を考える人が増えるようになりました。それによって人材の流動性は高まり、企業は優秀な人材を採用できる機会を得ると同時に、優秀な人材が流出するリスクに直面しました。

そんな中、貴重な人材の流出を抑えるために注目されたのが『帰属意識』です。「所属していたい」という意識である帰属意識を高めることで、離職率を低下させようと考えたのです。ですが、帰属意識はあくまでも意識であり、目に見えるものではありません。目に見えなければ、社員の帰属意識が高いのか低いのかを判断できず、企業としても対策が打てません。そこで、帰属意識を計測するためにとある指標と調査方法が活用されるようになります。その指標が「従業員満足度」であり、調査方法がアンケートを使った「従業員満足度調査」です。従業員満足度調査は、社員の帰属意識を計測するために、多くの企業で実施されることとなりました。

帰属意識が注目されなくなった理由

帰属意識とそれを計測するための従業員満足度調査は、離職対策として多くの企業に浸透していきました。従業員満足度調査の浸透には、「所属する企業や仕事への満足度が高いほど、顧客満足度も高まる」といった調査結果が発表されたことなども後押しとなりました。

では、この帰属意識が注目されなくなった理由が何かというと、「帰属意識が高い社員と、パフォーマンスが高い社員は一致しない」ことが分かり始めたからです。もう少し詳しく言うと、「帰属意識が高い社員の中には、パフォーマンスが高い社員も低い社員もいて、その割合は帰属意識が低い社員を入れたときとほとんど変わらない」と考えられ始めたからです。

帰属意識とは、「その企業に所属していたい」という意識のことですが、帰属意識が高かったとしても、「給料が良いから仕方なく仕事をしている」「できる限り楽して給料をもらいたい」という考えを持っている可能性があります。そういった理由から、帰属意識についてはその必要性が疑われ始めているのです。

帰属意識とエンゲージメント

近年、帰属意識に代わる概念として、エンゲージメントが注目を集めています。このエンゲージメントとは何でしょうか、また帰属意識とどのように異なるのでしょうか。

エンゲージメントとは

エンゲージメント(Engagement)とは、約束、婚約という意味や、何かに対して強い思い入れを持ち没頭していることを表します。ビジネスにおいては、もともとマーケティングで使われていた言葉で、顧客と商品のつながりや顧客が持つ商品への愛着などを表す用語として使われていました。最近では、HRの用語としても使われており、組織に対する社員の貢献意欲を表します。

帰属意識とエンゲージメントとの違い

では、エンゲージメントと帰属意識は、どのように異なるのでしょうか。

一つは企業・組織に貢献しようとする気持ちの違いです。例えば、企業・組織に対する愛着や居心地の良さを感じている状態も帰属意識が高い状態と言うことができます。必ずしも帰属意識が高いからいって、企業に対する貢献行動が多いというわけではありません。しかし、エンゲージメントは、企業・組織の業績に貢献しようという動機がセットになるため、業績との連動性が高いのが特徴です。

また、一番大きな違いは、帰属意識・エンゲージメントが持つベクトルの向きです。帰属意識は社員から企業・組織に対する一方通行のものです。しかし、エンゲージメントは、社員から企業・組織、そして企業・組織から社員という双方向のものです。社員と企業・組織のそれぞれがその成長に対して同じ方向性を共有し、お互いが貢献していこうという姿勢です。高いエンゲージメントを有する企業や組織は、社員個人の成長や貢献が組織の業績向上につながるだけではなく、企業・組織の業績が社員個人の成長に貢献しています。

高いエンゲージメントが企業にもたらすもの

それでは高いエンゲージメントはどのような効果をもたらすのか、より具体的に見ていきましょう。

企業の高収益

エンゲージメントが高い社員とは、企業・組織への貢献意欲が高い社員ということです。そのため、企業・組織の成長や業績に貢献するために、自分自身の能力を高めたり、高い目標を掲げて取り組んだり、周囲の社員を巻き込むなど、組織全体の目標達成に貢献することが考えられます。米GALLUP社の『State of the Global Workplace Report』では、エンゲージメントに関する企業収益関連の調査報告が行われています。この調査では同一組織におけるエンゲージメントが高い集団(上位25%)と低い集団(下位25%)を比較しました。その結果、エンゲージメントが高い集団は、低い集団よりも20%以上の高収益に貢献したことがわかりました。

高い生産性

また、エンゲージメントが高い社員は、内容は違えど、組織をよりよいものにするという強い動機を持っています。そのため、周囲を巻きこんでプロジェクトを推進したり、業務改善のために意見やアイデアを発信したり、集中して業務に取り組んだりすると考えられます。実際のところ、エンゲージメントの高い社員が多い企業や組織は、生産性が高いと言われており、前述の米GALLUP社の調査によると、エンゲージメントが高い集団は低い集団よりも20%以上も生産性が高かったそうです。

低い離職率

エンゲージメントが高いとは、組織と社員の結びつきが強いということです。組織と社員が何で繋がっているかは、組織の理念や方針、風土、文化、人間関係、成長の機会が豊富なことなど、組織や個人によって大きく異なります。ですが、その結びつきがあるため、エンゲージメントが高い社員は離職率が低い傾向にあります。実際のところ、エンゲージメントが高い社員の離職率(1.2%)は、エンゲージメントの低い社員の離職率(9.2%)よりも90%近く低いという調査結果もあります(『State of the Global Workplace Report』、米GALLUP社)。

エンゲージメントを高めるには

それでは、このエンゲージメントを高めるために人事としてはどのような施策を取るのが有効でしょうか。

エンゲージメントを高めるためには、まず組織の現状をしっかりと把握する必要があります。社員が何にエンゲージメントを感じており、何がエンゲージメントを下げているのかを、調査を通して明確にしていきます。調査方法としては、基本的にはアンケート調査になりますが、エンゲージメントを計測するための指標にはいくつかあり、集計には統計解析の知識とノウハウが必要になります。ですので、多くの企業ではエンゲージメントの調査ツールを導入して行われています。

エンゲージメント向上施策、研修の実施

エンゲージメントの調査を行なったら、その結果をもとに、組織の理想の状態について考えることをオススメします。組織の最優先課題とは、組織の理想と照らし合わせた時に、最もギャップとなるところです。ですので、調査の後、組織としてどこに取り組んでいくことが効果的なのかを検討します。

組織として取り組んでいく課題が分かったら、エンゲージメントを高めていくための制度改善や施策の実施に移ります。例えば評価に対する納得度や自身の仕事への重要感が得られていない場合には、評価制度の改善やピアボーナスなどの新しいシステムの導入なども有効です。理念やビジョンへの共感が課題という場合は、理念浸透研修やビジョン策定のワークショップを実施することも良いでしょう。また、社内のコミュニケーションに課題がある場合には、階層を超えてカジュアルに意見交換をしあうような段飛び懇談会や部署を超えたメンター制度などを導入することもおすすめです。

エンゲージメントサーベイは、あくまでも組織の現状を教えてくれるだけのものなので、その結果を受けて、理想の組織に向けた施策を企画、実施していくことが最も重要です。また、このサーベイを定期的に実施することで、その後の変化を計測し、定期的な人事施策・制度の見直ができます。

まとめ

帰属意識とは、「組織に所属していたい」という意識のことであり、社員の流動性が高まったことから注目され始めたものです。ですが、昨今では社員一人ひとりの生産性を高めることも同時に求められており、帰属意識を高めることが組織のニーズと合わなくなってきています。そんな中、離職率と生産性を同時に改善するエンゲージメントへの注目が高まっています。

エンゲージメントとは、組織への貢献意欲のことであり、『State of the Global Workplace Report』では、エンゲージメントが高いほど、収益・生産性・離職率が改善することが報告されています。

エンゲージメントを向上するためには、組織と社員が今・どこで・どのくらいつながっているのかを測定することが重要です。そして、組織の現状と理想を照らし合わせて課題点を洗い出し、人事施策や制度改善に落とし込んでいくことが必要となります。

もし、帰属意識を高めることや、従業員満足度の調査に疑問をお持ちの方がいましたら、エンゲージメント調査を検討してみてはいかがでしょうか?この記事を通して、組織と社員が強く結びついた、より良い組織にしていくために貢献出来たら幸いです。

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