行動変容を実現する行動科学のしくみ

行動変容を実現する行動科学のしくみ

昨今の研修業界では、とにかく「行動変容」がキーワードです。やって満足という研修ではなく、いかに研修で学んだ内容を行動に移すことができるか。今回は、世界の40カ国以上で1,200社、100万人以上の従業員を対象に業績向上を支援してきたSebastian Bailey氏がATD2018で語った「行動科学を使って行動変容する」についてお伝えします。

行動変容につながらない学習とは?

研修を実施すると次の3つのタイプの受講生に分かれるとSebastian Bailey氏は言います。

15%は変化する
70%はやってみても、元の習慣に戻る
15%は全くやらない

「面白い実験があるので、紹介しましょう」と言って、Sebastian Bailey氏は下記の実験について紹介しました。

一枚の紙に英語で文章が書かれています。
1回目は、制限時間内に「e+s」の付いた単語に◯をつける。

次に、別の英語の文章が書かれた紙を用意し、
2回目は「i+p」の付いた単語に◯をつける。

すると、すべての◯をつけるまでの時間が、
「40%早くなり、50%ミスが減った」という結果が出ます。

多くの人は、これで「訓練によって、能力が高まった」と思うでしょう。

しかし、この直後に、

「e+s」を再度見つけるように指示を戻すと、
「初期よりも50%遅くなり、20%ミスが増えた」という結果がでるのです。

これは何を意味するでしょうか?この実験では、学習や訓練が効果的に行動に転移しなかった、ということを意味しています。「私達のような学習、研修を提供する者は、このことを念頭に置いて、効果的な行動変容を導く手法を持っている必要がある」とSebastian氏はセッションを続けます。

行動変容につながる学習の3つのポイント

Sebastian氏は、学習が行動変容につながらない3つの理由として、下記の3つをあげていました。

1:何を変える必要があるのかわからない
2:動機づけのためのテクニックを間違っている
3:変えた行動を維持するための戦略が間違っている

Sebastian氏が推奨する、この学習が行動変容につながらない3つのポイントを克服する方法について、一つずつ見ていきましょう。

何を変える必要があるのかわからない

「何を変えればよいか、深くはわかってない。表面的にはわかってる気になっていることはあっても、本質を理解していないことは多々ある」とSebastian氏は言いました。研修で行動を変えようと思った時に、変化させるポイントについては下記の3つがあるそうです。

1:学習内容を行動に応用する能力があるか
2:学習内容を行動に応用するだけの動機があるか
3:学習内容を行動に応用するだけの十分な機会があったか

この内のどれが自分に当てはまっているのか、を特定するだけで、研修の学習内容を行動に移すのに、どのようなアクションを取るのかが変わることがわかるでしょう。「まず大切なことは、『何を変える必要があるのか』を正確に理解することだ」とSebastian氏は強調します。

動機付けのためのテクニックが間違っている

学習が行動変容につながらない2つ目の理由は、動機づけのためのテクニックが間違っていることです。効果的な行動変容のテクニックをいくつかの実験と共に紹介しましょう。

行動変容を促進するきっかけをつくる

ある町で、ゴミ箱の近くに、
「ゴミ箱に向かう足跡」を目立つマークしました。
この町では、46%のポイ捨てが削減されました。
行動変容を促進するきっかけが重要なのです。

行動変容のきっかけとなる告知表現を変更する

町の名前を「SPEED」と表示していた。
それを「SPEED KILLS(スピードは人を殺す)」に変更した。
その看板がある通りの車の平均速度は5時速キロ下がり、事故が20%減りました。
行動変容のきっかけとなる言葉が重要なのです。

他の人から行動を見られていると認識させる

ある大学の学食で、「正直箱」という支払いボックスを置いた。
自分で食べたものの料金を任意で入れるためのボックスで、価格の一覧は近くに表示してある。
最初の2週間は、花の模様を箱に記載した。
次の2週間では、目の模様を入れた。
更に2週間後には、目の模様を2つに増やした。
すると、2.76倍もの人が正直に金額を入れるようになった。
人に見られている、という意識を誘発することが行動変容を生むのです。

行動変容を計画化する

選挙の投票を例にした実験です。
「投票しよう!」という呼びかけだけの集団と、
「いつ、どこで投票するか?」を具体的に計画を立てた集団の投票率の違いを算出したところ、
結果、後者のほうが9%多く投票しました。
行動を具体的に計画することが、人の行動変容を創り出すのです。

行動変容を維持するための戦略が間違っている

行動変容を導けたとしても、それを維持するのにも困難を伴います。Sebastian氏は、5つの方法を提示していました。

きっかけとルーティン

行動変容を誘発するきっかけとなるもの(トリガー)を生活に組み込む。
例えば、すでに毎日紅茶を飲む習慣があれば、
紅茶のパックの隣にサプリメントを置いておく。
そうするとサプリメントを飲む習慣が身につきやすくなる。

新しいアイデンティティを与える

良い意味でのレッテルをはる、ということ。
喫煙者に対して、「あなたはノンスモーカーだね」と言い続けると、
禁煙期間が持続する。

満足度を得る

新しい外国語を学ばせる状況を考えると、
マネジャーがその指示を出し、コミットさせられたサミュエル。
達成すると報酬が上がるが、言語習得の楽しみははない。

一方、習得する言語を話す彼女がいるジュリアン。
言語を習得する重要性を自分で理解しており、
話せることで、恋人との会話が理解できると充実した感覚を持つことができる。

サミュエルとジュリアンどちらが、の言語を覚えるのが早いだろうか?
答えはジュリアンである。

モニタリング

ダイエットをしたい時、毎日自分の体重を記録する。
これだけでダイエットに対するモチベーションが維持され、行動は続く。

5人を巻き込む

ダイエットをしたい、だから10000歩を毎日続ける、とする。
その場合効果的なのは、一緒に10000歩歩く仲間を誘う。
SNSなどで今日何歩だったかを仲間にシェアする、などが効果的である。
1人ではなく、複数人と行うことで行動は維持しやすくなる。

まとめ

Sebastian氏が提示する行動変容の実験データは、どれも興味深いものばかりでした。普段、無意識に私達がおこなっていることもあったのではないでしょうか。大切なのは、このような事実があることを理解し、行動変容が生まれるように意図して研修の設計に組み込むこと。本記事の内容が行動変容を生み出す参考にしていただければと思います。

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