リテンションとは、社内の人材の確保と維持を意味しています。人材不足が深刻になってきている近年、社員のリテンションに注力する企業が増えています。また、今回の記事では2020年から世界的に流行している新型コロナウィルスの影響によって、雇用環境はどのように変化しているのかを取り上げます。ニューノーマル時代に向けて、今後どのようなリテンション強化が求められるのかをご紹介します。
社員の定着率アップに向けたリテンション強化のカギ
リテンションとは?
リテンション(retention)とは、「維持、保持」を意味する英単語です。ビジネスにおいてはマーケティング領域やM&A領域など、様々な文脈で用いられています。この記事では、人事領域のリテンションについてご紹介いたします。 人事領域においては「社内の人材の確保と維持」を意味しています。リテンション施策とは、採用できた人材に長く働いてもらうための施策のことです。
リテンションが注目されている背景
さらに2020年から猛威をふるっている新型コロナウィルスによって、ビジネスに大きな変化が起こっています。まず、コロナ禍における人材の定着がどのような状況になっているのかを見ていきましょう。
雇用状況の悪化
総務省によると2019年の平均完全失業率は2.4%、平均完全失業者数は162万人であったのに対し、2021年5月の完全失業率は3.0%(2か月連続増加)、完全失業者数は211万人(16か月連続増加)でした。有効求人倍率も1.6倍から1.1倍へ減少、正社員の有効求人倍率に至っては0.84倍となっており、かなり就職が難しくなっている状況が伺えます。
転職希望者数の増加
一方で、意外に思われるかもしれませんが転職希望者数は増加しています。パーソルキャリアの調査によると2021年3月の転職希望者数は、前年同月比108%となっています。また、「新型コロナウイルス流行で転職意向に変化はありましたか?」と尋ねたところ、「強まった39%」「変わらない52%」「弱まった9%」となっており、約4割が強く転職したいと感じていることになります。コロナ収束後、転職が一挙に増加する可能性もあります。 コロナ禍において転職を希望するようになった背景に、在宅でのテレワークなど時間や場所にとらわれない自由な働き方や、将来希望するライフスタイルやキャリアアップに合った働き方を求める傾向が強まっています。
副業の増加
緊急事態宣言やそれに伴う自粛により、各地で業績悪化による収入減少が見られています。2021年2月のAnother works社の調査によると、「コロナによって経済面の目先の不安が増えた人」は63.5%、「複業/副業を新たに開始もしくは増やした人」は57.1%、「新型コロナウイルスが落ち着いても副業/複業に挑戦したい、または続けたい人」は66.8%と高い割合でした。このような傾向が強まれば副業をする人が増加し、企業に対する帰属意識が低下したり、副業を本業にしたいと希望する人が出てきたりすることによって、リテンション強化が求められる可能性があります。
組織におけるリテンション対策の意義
ここまで、コロナ禍における就業状況の変化についてご紹介しました。多くの人々にとって、コロナウィルスの流行は自分自身の働き方や今後のキャリアを見直すきっかけになったことが伺えます。 それでは、企業側のリテンション対策がしっかりできているとどのような意義やメリットがあるのでしょうか。
採用コストの引き下げが可能になる
せっかく採用した社員が組織に定着せずにすぐ離職してしまった場合、新しい人員の確保が必要となり、さらなる採用のためのコストが生じます。また、新しく入社してきた社員に対する再教育のコストがかかるため、企業の生産性に影響が及びます。一度入社した社員がしっかりと定着し、高いパフォーマンスを発揮していくことができれば、社内のコスト削減に繋がります。
社内にノウハウやスキルが蓄積される
特に高業績人材や長年勤めていた社員の退職が続くと、それぞれが持っていたノウハウやスキルが社内で効果的に蓄積されなくなります。リテンションを強化することで定着した経験豊富な人材が新入社員の育成を担当するなど、次世代にノウハウやスキルを受け継ぎ、さらに組織として発展させていくことができます。
長期的な事業戦略が可能になる
リテンション強化により、必要な人材が確保できている状態が続けば、安定した企業経営を展開することができるようになります。また、人材不足に悩まされることがないため、企業の理念やビジョンに基づいた戦略を長期的に計画することができるようになります。事業が進行中に担当者が変更になるといった事態も起こりにくくなるので、組織の信頼感にも繋がります。
以上のことから、企業のリテンション施策は今後ますます重要になっていくでしょう。
リテンションが失敗する原因と対策
リテンションへの注目度が高まっているにも関わらず、多くの企業ではリテンション施策がうまくいっていないと言います。では、社員のリテンションが失敗してしまう原因は一体どこにあるのでしょうか。
エン・ジャパンの調査によると、社員の退職のきっかけの上位5項目は、順に「給与が低かった」「やりがい・達成感を感じない」「企業の将来性に疑問を感じた」「人間関係が悪かった」「残業・休日出勤など拘束時間が長かった」となっています。
(参考:エン・ジャパン「8,600名に聞いた『退職のきっかけ』調査」2018年)
このエン・ジャパンの調査を参考に、ここからは社員のリテンションが失敗してしまう原因について考察していきます。
給与の低さを解消できていない
まず社員が退職理由に挙げるものとして多いのが、給与の低さです。給与の低さとは、そもそもの給料が客観的に見て低い場合と、自分の業務量や成果に対して給与が釣り合っていないと感じる場合の2つがあります。給与は社員の生活に大きく影響するため、本人が給与が低いと感じていると本人の満足度を低下させることが多く、リテンションが失敗する原因になっています。
対策:人事評価制度の見直し
客観的に見て給与が低い場合には、人事評価制度を見直し、必要に応じて賞与も検討することが重要です。給与を引き上げるのはなかなか難しい問題ではありますが、低い給与を維持した結果、社員が退職してしまう方がリスクとなります。社員が相次いで退職してしまうと、他の社員への業務のしわ寄せが負担となってさらなる退職を呼び込みます。また、新しい人材を採用するためのコストも上昇してしまいますので注意が必要です。
給与が釣り合っていないと感じている場合には、本人に理由を聞く必要があります。もし、自分の実績が正当に評価されていないと感じている場合には、組織としての評価と本人の認識とのギャップをうめる必要があります。また、仕事量の多さによってそう感じている場合には、部署全体の業務分担や連携体制、個人の業務の進め方を見直す必要があるでしょう。
その上で本人の実力や実績を適切に評価し、本人が給与について納得できるよう説明することが大切です。その際に給与が上がるためには、具体的にどうしていけばよいのかも話し合えると良いでしょう。
社員に対してやりがいや達成感を与えられていない
次に、社員に対してやりがいや達成感を十分に提供できていない場合です。仕事に対するやりがいや達成感は、社員のモチベーションや自己実現にも直接的に関わってきます。たとえ高い給料をもらっていても、毎日の業務にやりがいが感じられない場合、仕事そのものに苦痛を感じるようです。したがって会社への帰属意識も低くなり、離職してしまう確率が高くなります。
対策:企業理念の浸透
社員がやりがいや達成感を感じられていない場合、その原因の多くは社員が会社で働く意義を見出せていないことにあります。これに対しては、企業理念を浸透させることが有効な解決策です。企業理念が浸透することで、社員には明確な意識付けが行われるようになります。また、その社員のやっていることがお客様や周囲のメンバーにとってどのように役に立っているのかを具体的に伝えることで、本人がやりがいを実感するきっかけにもなります。
企業の将来性に対する不安を解消できていない
企業の将来性に対する不安も、退職理由に多いものの一つです。企業の将来性とは、利益率や成長率、社員の増加率などを指します。企業が今後も存続できるかどうかは、社員の実生活や人生設計に大きく影響します。会社側が想定している以上に、社員は企業の将来性を常日頃から見極めています。変化の激しい現代において企業の将来性を確保することは難しい課題ではありますが、社員のリテンションを考える上では重要な項目です。
対策:企業のビジョンや事業計画の共有
企業の将来性への不安に対しては、企業のビジョンや事業計画を共有することが重要です。来年会社はどういった事業を中心に展開していく予定なのか、年間目標は何かなどについてできるだけ具体的に示します。会社の将来性への不安は、経営層が明確なメッセージを発信して社員を説得することでしか解決されません。全社会議や月初会議で、定期的にビジョンや事業計画を共有すると効果的です。
社員にとって、円満な人間関係を構築できていない
人間関係を理由とした退社もとても多く見られます。日常的に接する人との関係がうまくいかないと、社員には大きなストレスが溜まり、働くことを苦痛だと感じやすくなります。人間関係の悪化は仕事に支障をきたすことも多く、大変根深い問題です。表面化しない問題も生まれやすいため、対策には慎重さが求められます。
対策:部署異動や配置転換を行う
人間関係で悩んでいる社員に対しては、まず社内に相談窓口を設け、その社員の悩みを聞くことから始めます。明らかに問題がある場合は、部署や当該社員に注意を加え、静観します。それでも解決しない場合は、社員の部署異動や配置転換で対応します。その際、本人や関係社員の異動にあたり周囲の誤解を生まないよう、関係性を考慮した上での異動であることを明確に伝えておく必要があるでしょう。
残業や休日出勤などの拘束時間が長い
拘束時間の長さも、主な退職理由の一つです。平日の長時間の残業や急に入る休日出勤は、社員のプライベートを浸食します。昨今ではプライベートを重視する人も増えているため、この項目は近年急上昇しています。また、残業過多による精神障害や事故はコンプライアンスの面から企業に対する取り締まりが強化されています。役職によっては勤務時間が長くなるのは致し方ない面もありますが、特定の社員に負担が偏っていないかという点は常に意識する必要があります
対策:働きやすい労働環境を整える
拘束時間の長さに対しては、働きやすい労働環境を整えることで対応します。まずは労働時間を減らすことが重要ですが、解決策はそれだけではありません。各社員の能力や体調に合わせた就業時間や就業場所を設定することも、一つの方法です。例えば、体調がすぐれない社員に対しては昼からの出勤や早退を行えるようにすると安心感が高まります。また、社内でなくても作業できる職種は、積極的にリモートワークを導入すると社員の満足度も向上します。
階層別リテンション施策の重要性
コロナ禍およびコロナ収束後のニューノーマル時代においては、これまでの退職のきっかけに対するリテンション施策に加えて、新たな視点が必要となります。それは優秀な人材ほど獲得競争が高まっており、いつでも他社に流出する可能性がある時代だということです。それを防ぐためには、そういった人材が自社に居続けることの意義を明確に感じ、この企業でなければだめだという強いこだわりを持てるようにする必要があります。
青山学院大学の山本教授によると、効果的なリテンション施策とは「対象者を絞って、施策をセットで実行するべき」だと述べています。対象者を絞ってリテンション施策を行う際には集合型研修が導入しやすく、社員の定着率を高める効果も期待されています。「施策をセットで実行する」とは、例えば全社研修において企業理念の浸透を行いながら、階層別研修において以下のような点に特化したプログラムを組むといったことを指します。
新入社員向け
新入社員は、同期同士の繋がりを作ることがリテンションに有効であることが報告されています。例えば、1日の研修時間を長めに設定したり、新入社員同士が協同で作業するプログラムを取り入れたりすることで同期同士の絆が深まります。実務に戻っても切磋琢磨することで、お互いに成長できる関係性構築に繋がったケースもあります。また最近では、グループ会社など複数社の新入社員と研修を行う合同研修を導入している企業も増えています。これは他社の社員から刺激を受けながら学べるというメリットがあります。つまり、組織への適応が必要な新入社員に役立つリテンション施策は、お互いに向上し合いながら頑張れる仲間との関係性を深めることが重要です。
若手社員向け
入社2~3年目の若手社員は仕事内容や職場環境に慣れてきますので、スキルアップにより成長を実感できる機会を設けることがリテンションに有効です。例えば、組織のビジョンを踏まえた目標設定や成果を上げるためのプロセスを習得する「目標管理研修」や、将来のリーダー候補としての「後輩指導スキルアップ研修」などが効果的です。若手社員が主体的な行動を取れるように育成することで、仕事へのモチベーションが向上し、組織への愛着も深まります。
リーダー層向け
新しくリーダーに昇格した社員の多くは仕事へのやる気が高まっている一方で、部下のマネジメントに悩みを抱えています。マネジメントへの不安から離職を考えてしまうケースもあります。したがって、「経営マネジメント」と「チームマネジメント」の両面を包括した研修を導入し、チームでの成果にコミットするリーダーとしての成長と自信をつけることを促しましょう。
まとめ
今回はコロナ禍での就業状況の変化を確認しながら、組織におけるリテンションの意義とリテンション施策のポイントについてご紹介しました。コロナ収束後は、転職増加と人材獲得競争の再燃が予想されます。ますます各企業でのリテンションの重要性は高まっていくでしょう。テレワークと副業の解禁が増加している点も、今後の働き方に大きな影響を与えそうです。ぜひ他業界の成功例も参考にしながら、効果的にリテンションを強化していきましょう。
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