早期離職とは、3年以内に入社した社員が離職することを言います。実は3年以内の離職率は、過去20年間ずっと3割前後で推移していることをご存知でしょうか? 今回の記事では、社員がせっかく入社した会社を離職するに至った理由として多いものをランキングでご紹介します。また、社員の早期離職を防ぐために企業ができる対策方法について検討していきましょう。
早期離職が減らない理由とは?企業が力を入れるべき対策のポイント
早期離職の実態
新卒社員の離職率
厚生労働省が2022年10月に発表した調査によると、2019年3月に大学を卒業した新入社員の3年以内の離職率は平均31.5%(前年比+0.3%)でした。
参照:新規学卒就職者の離職状況, 厚生労働省, 2022年10月
企業の規模で比較すると、社員数が少ない所ほど離職率は高くなっている傾向が見られます。規模が大きくなるほど人手不足に悩まされることがなく、安定した業績をあげることができるため、働きやすさを感じやすいことが理由として挙げられます。
中途社員の離職率
中途社員の離職率は新入社員の離職率よりも若干減少しますが、こちらも30%前後で推移しています。ただ、新卒社員と比べて、企業の規模による離職率にはほとんど差がありませんでした。
離職率が高い業種
ここでは、業種によって離職率に差はあるのかをご紹介します。厚生労働省が2020年10月発表した調査によると、入社後3年以内に離職した社員が最も多いのは宿泊業・飲食サービス業、続いて生活関連サービス・娯楽業となりました。24時間営業や年中無休といった特性上、不規則なシフトや休日数の少なさ等の要因によって心身の疲労や不満が出やすくなっていたようです。学校や学習塾、英会話スクールなどの教育業界も離職率が高くなっています。学校や塾の先生は安定しているイメージがありますが、授業に関する学習指導以外の業務が実際は非常に多く、平均残業時間は月間31.6時間と全業界の中で最も多いと言われています。これらの業界では、3年後には約半数が離職しているという状況です。
参照:新規学卒就職者の離職状況, 厚生労働省, 2020年10月
早期離職の理由
ここまで現在の離職状況について見てきました。それでは、新しく会社に入った社員が離職を考えるようになるきっかけや理由はどこにあるのでしょうか。
まず、15歳~34歳の労働者を対象とする調査で明らかになった「離職の理由トップ5」をご紹介します。(※対象者3,926人に複数回答方式で尋ねた結果)
- 1位:「労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった」29.2%
- 2位:「人間関係が良くなかった」22.7%
- 3位:「仕事が自分に合わない」21.8%
- 4位:「賃金の条件が良くなかった」18.4%
- 5位:「ノルマや責任が重すぎた」15.8%
労働政策研究・研修機構, 「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」, 2019より作成
これを所属期間別に見ると、「1年未満の社員」「1~3年未満の社員」「3年以上の社員」で興味深い違いがあります。以下に特徴をまとめます。
1年未満の社員
1位~3位までの割合がいずれも35%台と、平均よりも明らかに高くなっています。特に3年以上の社員と比べて、人間関係や仕事が自分に合わないことを理由に挙げる比率が高いです。
1~3年未満の社員
1年未満と3年以上の間を取るような結果が見られましたが、特に1位の労働時間や休暇に関する理由が32%、4位の賃金に関する理由が19.7%と高くなっているのが特徴です。
3年以上の社員
人間関係や仕事が合わないという割合は20%を切っており、女性では「結婚や子育て」、男性では「会社の将来性」に関する理由が入ってきているのが特徴です。
特に、3年未満の早期離職には人間関係の問題や仕事のミスマッチの要因が大きいと考えられます。一方で、3年以上が過ぎてからの離職には、それぞれのキャリアの選択と絡んだ背景が伺えます。
早期離職による企業のデメリット
このようにせっかく入社した社員が早期離職となった場合、実際に企業にはどのようなデメリットがあるのかを確認しましょう。
採用コストの損失
マイナビが行った2017年度の新卒採用を対象とした調査では、求人広告費や人材紹介費などを含めた一人当たりの採用コストの平均は、約50万円程度が相場であると報告されています。
教育コストの損失
新入社員で採用した際には、OJTや様々な研修費用が発生しています。それらの教育コストを上回る業績を出すことができるようになるためには、多くの企業で3年以上かかると言われています。
企業イメージのダウン
「若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)」の第13条により、新卒採用をしている企業は、直近3年間におけるその離職率を公表しなければならないことになっています。したがって、毎年多数の離職者を出してしまうと、新卒応募者も減少してしまう可能性があります。 また、退職者が評価の低い口コミを就活・転職サイトに掲載すると、さらにその影響力は大きくなるでしょう。企業の売上や取引先への企業イメージも悪化する可能性があります。
早期離職を減らすための対策
ここで改めて早期離職の理由を振り返ってみると、何か気づくことはないでしょうか?
- 労働時間・休日・休暇の条件が良くなかった
- 人間関係が良くなかった
- 仕事が自分に合わない
- 賃金の条件がよくなかった
これらはすべて「環境」や「他者」などの外的要因に依存した理由になっています。それに対して多くの企業では人事制度や配属などの改善を行うことで離職率の低下に努めていますが、毎年発表される離職率は30%超えを継続しています。したがって、職場の環境改善はもちろん重要ですが、根本的に解決しなければならないことは他にもあるようです。ではどのような対策が必要なのでしょうか?ここでは3つの対策をご紹介します。
採用段階での対策
早期離職の本質的な問題の一つは、企業と社員の価値観のミスマッチです。これを防ぐためには、採用段階で自社の社風にマッチするかどうかの判断が求められます。そこで、面接においては企業の価値観を明確に伝えていくことが重要です。同時に面接での質問や適性検査を通して、応募者の価値観やパーソナリティーをより深く理解し、選考を進めていく必要があります。また、給与や休日などの労働条件のミスマッチを防止するためには、企業説明会や内定時にわかりやすく説明しておきましょう。
内発的動機付けの重要性
入社後の早期離職を防ぐためには、本人の仕事に対する「内発的動機付け」が欠かせません。「内発的動機付け」とは好奇心や探求心、向上心など本人の内部から湧き上がってくるモチベーションのことです。心理学者J. Richard Hackmanと経営学者Greg R. Oldhamは、仕事の特性によって内発的動機付けが高まると考え「職務特性モデル」を理論化しています。
(参考:『経営行動科学ハンドブック』(中央経済社),『組織行動:理論と実践』(NTT出版)を基に作成)
この図の見方を説明します。左の5つの特性がモチベーションを高めるための中核となる職務特性です。右の3つが職務特性によってもたらされる重要な心理状態です。5つの職務特性のうち、「技能多様性」「タスク完結性」「タスク重要性」の3つが「仕事の有意味感」を作り出します。そして「自律性」が「仕事の成果に対する責任感」を生み、「フィードバック」は「成果への知識」と結びついています。これら3つの心理状態を達成することでモチベーションが高まり、成果を生み出すことができると言われています。 成果を生み出すことができるようになると、「仕事が自分に合わない」と感じることは少なくなっていきます。
このように入社後には、本人の内発的動機付けがうまく進むようサポートすることが大切です。例えば、「入社直後だからと言って単調な仕事ばかりではなく、個人の強みが活かされる仕事を任せてみる」「自分で目標を達成するための計画を立ててもらう」といったように、それぞれの職務特性が満たされるように意識しましょう。
また、定期的に面談を実施する中でできることも多くあります。「本人のやっていることが他者や社会にどのように役に立っているのか」を伝えたり、「仕事の全体像はどうなっていて最終的にどんなお客様の反応が得られたのか」をフィードバックすることなどが大切です。
同時に本人の知識力や技能、成長意欲が高まるほど成果に結びつきやすいため、教育体制の見直しをすることも有効です。例えば、「初期研修の内容や指導者は適切であるか」、「研修で学んだことはどれぐらい業務で発揮できているか」を確認しましょう。うまくいっていない場合には原因を分析し、早急な対処を適切に行いましょう。
セルフマネジメント力の向上
様々な社員やお客様と接するビジネスシーンでは、「これが足りない」「あそこがよくない」「あの人が嫌だ」というのは次々と出てきてしまいます。ただ忘れてはいけないのは、こういった悩みに遭遇してもうまく乗り越えている社員がいるということです。特に、学生から社会人になったばかりの頃や新しい職場になった時には予想以上のストレスがかかっています。そのようなストレスにうまく対処するために重要になるのがセルフマネジメントです。
セルフマネジメントとは「自己管理」を意味し、目標達成に向けて自分の身体面と精神面の両面をより良い状態に保つことです。セルフマネジメント力が向上すると、どのような環境や場面においても自分の身体の健康を維持し精神を安定させることができるため、自分の力を最大限発揮することができるようになります。それによって仕事の成果が上がり、満足度が向上するため、早期離職への対策として有効です。
セルフマネジメント力に必要な要素とは?
タスク管理:目標ややるべきことを計画化し、抜け漏れがないようにする。
タイムマネジメント:先々の予定を予測し、急な変更にも対応できるよう5分前・10分前行動を徹底する。
思考のコントロール:偏った考え方にとらわれずに客観的に物事を考える癖をつける。
フィジカルケア:食事・運動・睡眠のバランスを意識して、自分が心地よい生活リズムを築く。
このセルフマネジメント力は、早期離職の可能性がある社員だけではなく、全社員にとってメリットがあるものです。個々が自身の感情をコントロールすることができるようになるので、人間関係のトラブルも減少する可能性があります。
このようにどのような環境に身を置いたとしても、自ら考え、自ら行動するセルフマネジメント力が向上すると、今までと違った変化を生み出すことができるかもしれません。
まとめ
今回の記事では、入社3年以内の早期離職率が30%前後で継続していることに着目し、早期離職に至る理由と対策についてご紹介しました。高い早期離職率が続くと、企業にとっては大きな損失となります。今後新たな変化を生み出すためには、外的な要因に目を取られるばかりではなく、社員自身の内的な要因に働きかける対策を効果的に行っていきましょう。
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