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リカレント教育を企業に導入するメリットと課題~日本と海外の事例を紹介~

リカレント教育を企業に導入するメリットと課題~日本と海外の事例を紹介~

社会人になってからも教育機関に戻って学習し、また社会へ出ていくということを繰り返す教育システム「リカレント教育」。今後ますます健康寿命が延び、100歳まで生きることが普通になる「人生100年時代」がやってくると言われています。同時に急速な少子高齢化により労働力人口の減少が懸念される日本では、様々な状況の人々がリカレント教育を活用して活躍することが期待されています。

リカレント教育を導入する企業も増えてきましたが、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?また、どのような課題を解決する必要があるのでしょうか?国内および海外の企業事例を交えながら、検証してみましょう。

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リカレント教育とは?

リカレント教育の歴史

リカレント教育は、もともとスウェーデンの経済学者ゴスタ・レーン(Rehn, G.)によって提唱された概念です。1969年にベルサイユで開催された欧州教育大臣会議において、後に首相となるスウェーデンのオルフ・パルメ(Palme, O.)が紹介したことで注目が集まりました。1973年に経済協力開発機構(OECD)によって、「リカレント教育 -生涯学習のための戦略-」が公表されたことで国際的に広く認知されていきました。その中でリカレント教育は、以下のように定義されています。

「教育を個人の全生涯に亘りリカレントに、すなわち労働をはじめ余暇、引退などの諸活動と交互に行う形で分散させること」

リカレント(recurrent)には、「循環する、周期的に起こる」という意味があります。リカレント教育システムでは、「学ぶこと」と「働くこと」が多種多様な順序で組み合わされることになります。つまり、教育→就職→引退という一方通行のライフパターンへのアンチテーゼとも言えます。

リカレント教育がいち早く国の政策として取り上げられるようになっていった海外諸国に比べると、日本のリカレント教育はなかなか普及していない現状があります。顕著に表れているデータとして、OECDが2012年に実施した国際成人力調査があります。30歳以上の成人の通学率で見ると、24カ国中最も高いフィンランドが8.27%、日本は1.6%と最も低い結果でした。また、2015年高等教育機関(4年制大学)への25歳以上の入学率を見ると、OECD平均が16.6%に対し日本は2.5%となっています。

リカレント教育の目的

リカレント教育を行う目的は、職業上必要な知識の習得やスキルアップです。2017年、安倍晋三元内閣総理大臣が「リカレント教育を抜本的に拡充し、生涯にわたって学び直しと新しいチャレンジの機会を確保する」と宣言したことで脚光を浴びました。経済的な事情などで高校や大学へ進学できなかった人や、出産・育児で退職した女性、定年退職した人もリカレント教育によって何歳になっても学び直し、新たに就労ができる社会を目指しています。リカレント教育では、次の3つの教育体制の統合を目的としていると言われています。

① 義務教育後の学校教育 ② 民間企業を中心とした企業内教育 ③ 教養や一般教育を中心とした多様な成人教育

生涯学習との違い

リカレント教育は生涯にわたって学び続けていくという意味合いから、生涯学習と混同されることがあります。生涯学習とは、生涯にわたって行うあらゆる学習活動のことを言います。つまり、学校教育だけではなく、スポーツ活動や文化活動、ボランティア活動、趣味など、生活をしている中で学んだこと全てを含みます。(参考:教育庁生涯学習推進局社会教育課

リカレント教育は生涯学習の一部ではありますが、趣味や生きがいを目的にして行うものとは違い、仕事でのスキルアップやキャリアアップを目指すことを目的に行うものを指します。

企業がリカレント教育を導入するメリット

ここまでリカレント教育とは何かということを紹介してきました。それではこれらのリカレント教育を企業が導入し、社員に勧めていくことにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

企業の競争力の強化

AIやICT、IoTを始めとするテクノロジーは近年めまぐるしく発展しており、新しいスキルを常にアップデートする必要があります。それらの新しい専門的知識を社員が身につけることで、自社のサービスや製品の品質向上に繋げることができます。個々のスキルアップは組織全体のパフォーマンスにも影響します。リカレント教育を通じてそういったスキルのアップデートを継続していくことができれば、企業全体の競争力を強化することができます。

企業の価値観やブランドのPR

社員に学びの場を提供することは、現代の企業に求められる必要な要素の一つです。社員一人ひとりが成長できる機会を提供するという価値観は、企業にとって大きなPRになります。特に、大学生・大学院生が就職活動で重視することを調査した結果では、全体の50%が「成長できる環境」を挙げています。(i-plug調査, 2020)また、社員への投資をしっかりとしている企業として認識され、社員の定着率向上に繋がる可能性があります。

社員のスムーズな復職

リカレント教育は、育児や介護、自身の病気の療養などプライベートな事情で就業にブランクがある人に大いに役立ちます。休職や休暇取得中でも学びの機会を得ることができるため、就業できない期間でも社員のスキルを落とすことなく、復職後の準備を効率的に行ってもらうことができます。

リカレント教育を導入している企業事例

それでは、実際にリカレント教育を導入している企業はどのような取り組みを行っているのかをご紹介します。まずは、日本国内の企業事例から見ていきましょう。(参考:イノベーション創出のためのリカレント教育, 令和2年11月5日, 経済産業省 産業技術環境局)

日本

ソニー株式会社:「フレキシブルキャリア休職制度」で豊かなキャリア展開を支援

①休職(最長5年)・・・配偶者の海外赴任や留学への同行によって知見を広め、語学・コミュニケーション能力の向上、キャリアの継続を図ることを目的としています。

②休職(最長2年)・・・私費就学のための休職を可能とし、自身の専門性を深化・拡大させることを目的としています。

■実際の取得例 ・事務系社員が「海外のビジネススクールでマーケティングをじっくり学んでMBAを取得したい」とシンガポールの大学院に進学。 ・中国と頻繁に業務上のやり取りをしているエンジニアが「もっとしっかり中国語を身に付けてビジネス相手の暮らしやバックグラウンドを理解したい」と私費留学。

「フレキシブルキャリア休職」の取得中は基本無給ですが、社会保険などは本人負担相当分を会社が支給しています。私費就学の初期費用についても、入学金や初年度教材費等について最大50万円を支給しています。(https://www.sony.co.jp/

日産化学株式会社:博士号の取得を手厚く支援

①博士号取得に当たってのサポート 業務関連性が高いと会社が判断した場合、実験や学科試験等の博士号取得に必要な時間を業務として認定するとともに、各種経費(学費、試験費、旅費交通費等)についても会社が負担します。

②博士号取得記念品授与式を慣行 学位取得の功労、研究のレベルアップ及び学会における日産化学の知名度の向上に対し褒賞を与えます。社長及び担当役員への研究発表会と記念品贈呈が行われます。2020年時点で累計実績54名。(https://www.nissanchem.co.jp/

SCSK株式会社:社員の主体的な学びを促す研修システム

①専門性認定制度 ITに関わる15職種35専門分野について、7段階のレベルごとにスキルを定義し、各分野の指揮者によるレベル認定を実施します。長期的なキャリア形成の指標となっており、業務アサインの基準としても使われます。

② i-University 「キャリア開発」「リーダーシップ開発」「専門能力開発」「ビジネス基礎能力開発」の4分野350コースを開設しました。組織から指名されて受講するコースと、本人申込みにより事業分野や職域にとらわれず幅広く選択できるコースがあり、各自のキャリア形成のニーズに応えています。

③コツ活 社員の主体的な学びを推奨することを目的に、1年間の自己研鑽活動の実績を登録することで一定のインセンティブを支給しています。登録内容は組織で共有するとともに、特徴的な活動は「コツ活」サイトで全社でも共有し、各自の自己研鑽の参考としています。 (https://www.scsk.jp/

キヤノン株式会社:eラーニングコンテンツ学習やクリエイティブライフセミナー実施

30分就業時間を前倒しにする「ワークライフバランス推進期間」の終業後や週末の時間を有効活用して、モバイル受講が可能なeラーニングコンテンツの開設を推進しています。2020年は約5,000人の社員が受講しました。また、社員が定年退職後の人生をより豊かなものにできるよう、50歳・54歳時に「クリエイティブライフセミナー」を実施しています。これはライフプランやキャリアプランについて考える機会を早い段階で設けることによって、60歳以降の準備を自立的かつ計画的に進められるようにしています。(https://canon.jp/

サイボウズ株式会社:「育自分休暇制度」によって退職後6年間であれば復帰が可能

2012年から35歳以下の社員を対象に、退職後6年間であれば復帰が可能な「育自分休暇制度」をスタートしました。転職や留学など環境を変えて成長したい人に、退職後も復帰しやすい環境をつくることを目的としています。会社を離れて新たな知識・スキルを獲得した社員が再集結することで、より強い組織が作られていると言います。(https://cybozu.co.jp/

海外

続いて、海外の企業事例です。リカレント教育に注力している海外の国はたくさんありますが、今回はその中でも世界的にサービスを展開しているグローバル企業2社を取り上げてみたいと思います。

H&M (スウェーデン):社内の公用語を英語に統一、グローバルブランドへ

スウェーデンを代表するアパレル企業H&M Hennes & Mauritzは、世界中に3000店舗以上を展開しています。H&Mがグローバルファッションブランドになった背景には、社内の公用語を英語に統一したことが大きいとされています。スウェーデンの公用語はスウェーデン語ですが、社内では全員が英語を使用するため、国外とのやりとりにも問題なく対応できるようになりました。語学力が不足している社員には、トレーニングや海外研修が充実しており、働きながら必要なスキルを身につけるための仕組みが整っています。また、語学力に合わせたキャリアアップ制度が実施されているため、社員の学習へのモチベーションに繋がっています。語学以外にも、大学で学び直しを行いながら30年以上勤務する社員も少なくないそうです。(https://hmgroup.com/

Huawei Technologies Co.(中国):リカレント教育を内製化し、社内研修を充実

アメリカとの貿易摩擦で話題の同社ですが、社内に世界最先端のloT等の知見が揃っており、社内研修機関の設置に力を入れているのが大きな特徴です。「ファーウェイユニバーシティ」と呼ばれる社内研修機関や、世界45か所にトレーニングセンターを設置しています。講師はベテラン社員が務め、自身の業務経験を語り、後輩の質問に答えるというスタイルがメインです。また、新入社員にはコーチが2人付きます。1人は日々の業務の指導、もう一人は新入社員の悩みに答えながら導くメンターの役割を担います。ファーウェイはこうした「知の共有」という文化を非常に重視しています。(https://www.huawei.com/jp/

日本企業におけるリカレント教育導入に向けた課題

doda主催のセミナーに参加した人事・採用担当者183名にリカレント教育の導入についてアンケートを行ったところ(2019年8月26日~9月2日まで実施)、91%の人事・採用担当者が「導入していない」と回答したというデータがあります。3%が「導入している」、6%が「導入を検討している」という結果でした。これらのことからも、先ほどご紹介した日本の事例はごく一部の企業ということが伺えます。

国の施策としても推奨されているリカレント教育が日本において発展していくためには、どのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。海外の企業事例と比較してみたいと思います。

支援体制の整備

日本の事例の中には、リカレント教育を行う際に「休職制度」という形を取っている企業が少なくありません。リカレント教育の定義は学びと就労を繰り返すことにありますから、決して間違いではありません。しかし、日本では長期雇用の慣習がまだ残っており、キャリアを一度中断してでも学び直しをするという考え方が根付いていません。また、リカレント教育に対する職場の理解や評価もまだ高いとはいえないのが現状です。日本の社会人の通学率が著しく低い理由は、キャリアの一時中断によるリスクに起因するのではないでしょうか。

一方で、スウェーデンの語学研修や中国のトレーニングセンターの例においても、社員が働きながら必要なスキルを身につけられる仕組みと環境が整っていることは大きなメリットです。社員は経済的な負担や人間関係、キャリアに対する心配をする必要がなく、企業にとっても学んだ知識やスキルをすぐに業務に活かしてもらうことができるため、生産性が向上します。

したがって、日本のリカレント教育においては働きながら学びの時間を確保できる仕組みづくりや、休職や退職をする場合の復職支援といった環境整備をいかに進めるかが課題です。

教育カリキュラムの整備

学習環境と同じように、大切なのが学習する中身です。一定期間のうちに今後の職業人生に必要な内容を体型的に学習できるカリキュラムと優秀な教員も必要になります。日本の事例においても、もともと大学の研究機関と連携していたり、自社でコンテンツを発信できる企業は非常にメリットがあります。ただ、新しいスキルを常にアップデートするという観点から考えると、すべてを自社や関連機関で完結する必要はありません。社員が必要な専門的知識やスキルに合わせて、他の教育機関や研修機関、企業同士の連携を図っていくことが求められるようになるでしょう。

日本におけるリカレント教育の今後

文部科学省の「社会人の学び直しに対する需要の調査」(2017年)によると、 89%の社会人が再教育を「受けたい」もしくは「興味がある」と回答しています。再教育で利用したい教育機関としては、「大学院」「大学(学部)」と回答したものが半数以上を占めています。急速な社会の変化により、今後もリカレント教育の必要性は益々高まっていくことが予想されます。 同時に企業のさらなる発展のため、リカレント教育を導入する企業も増えていく可能性があります。いかに日本企業が抱える課題を克服できるかがリカレント教育導入の分かれ道になりますので、今後も政府の提言や他社の取り組みにはアンテナを張っておくことをオススメします。

尚、リカレント教育のための教育訓練休暇を企業が導入し、社員が実際に休暇制度を活用した場合に助成金を申請することができます。 制度の導入経費と訓練中の賃金の一部が助成されますので、ご参考になさってください。

まとめ

今回は、リカレント教育のメリット、導入している企業の事例をご紹介してきました。そして海外の事例と比較しながら、日本企業においてリカレント教育を導入していくために取り組むべきことについても検証してきました。

リカレント教育発祥のスウェーデンのように、教育にかかる個人負担がなかったり、夜7時までにほとんどの人が帰宅して家族と過ごしたり勉強する時間を確保するという国とは、制度や文化が異なる点も多いのは事実です。しかしながら、今後労働力不足が進む時代を企業が生き抜くためには、リカレント教育によって社員のスキルのアップデートが不可欠となります。今回ご紹介した企業事例も参考にしながら、自社に合った導入方法を検討してみることをオススメします。

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