OODAループとは、アメリカの軍事戦略家であるジョン・ボイド氏が発明した、先の読めない状況で成果を出すための意思決定方法です。OODAループの名前を聞くのは初めてかもしれませんが、OODAループとよく比較されるフレームワークに、皆さんもよくご存じのPDCAサイクルがあります。そこで今回は、そんなOODAループの概要や効果、実践方法、PDCAサイクルとの違いをご紹介します。
OODAループとは?PDCAサイクルとの違いと使い分けを紹介
OODAループとは
OODA(ウーダ)ループは、アメリカ合衆国の戦闘機操縦士であり、航空戦術家でもあるジョン・ボイド氏が発明した意思決定方法です。ジョン・ボイド氏は、どんなに不利な状況からであっても、40秒あれば形勢を逆転できたということから「40秒ボイド」の異名を持っていました。そんな彼の強さの秘訣を一言でいうと、「行動に移す速さ」です。どんなに先の見えない状況の中でも迅速に意思決定を下し、迅速に行動に移す。これこそが、ジョン・ボイド氏が40秒ボイドたる所以でした。ジョン・ボイド氏は、軍を引退した後に人間の意思決定に関する研究に没頭し、その研究の末に作り上げたのがOODAループです。OODAループは、PDCAサイクルと同じように4つのステップに分かれています。そのステップとは、「観察(Observe)」「状況判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」の4つです。「OODA」は、この4つのステップのイニシャルを取って名付けられています。「OODA」の読み方は、ジョン・ボイド氏自らが「ウーダ」に決めました。
OODAループが注目されている背景
それでは、なぜOODAループが注目されるようになったのでしょうか。その背景について見ていきたいと思います。
VUCAの時代における意思決定
皆さん、「VUCA」という言葉を聞いたことがありますか。これは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を並べたものであり、あらゆる物事が目まぐるしく変化する予測が難しい時代のことを意味しています。新型コロナウィルスや異常気象、自然災害の発生など、ビジネスを取り巻く環境は絶えず変化しています。このような時代においては、その時々の状況に応じて素早く判断をし、意思決定していくことが求められます。したがって、「計画」から始まるPDCAサイクルに変わり、現場の「観察」から始まるOODAループが注目されているのです。
PDCAサイクルが万能ではなくなった
PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)という4つのステップから成り立っています。一般的にPDCAサイクルの認知度の方が高いことからも、実績豊富なフレームワークであることが言えます。しかし先ほど述べたように、VUCAの時代においてはPDCAサイクルは万能ではありません。もともとPDCAサイクルは品質管理や生産管理のためのフレームワークであり、決められた工程の中で生産性を高めることに焦点を当てています。したがって、決まった工程がなく刻一刻と変化する状況においても活用できるフレームワークとして、OODAループが注目されています。
OODAループの4つのステップと具体例
それでは具体的にOODAループの各ステップについて、どのように進めていけばよいのかを確認しましょう。
①観察(Observe)
OODAループの第1ステップである「観察」とは、単に「見る」という意味ではありません。「見る」というよりは「情報の収集」の方が適切な訳かもしれません。観察のステップでやることは、自分の感情や置かれている状況、相手の行動や置かれている状況、環境、市場の動向といった事実を幅広く集めることです。
観察(Observe)の具体例
- A例:私は今お腹が空いている。今はxx駅にいて、14時だ。
- B例:彼女が「イライラしてるから放っておいて!」と言った。彼女がイライラしているときは体調が悪いことが多かった。
- C例:新発売のゆず風味のフライドチキンは、今日で100個売れた。先月の新商品は、一日に平均で300個売れていた。
②状況判断(Orient)
第2ステップである「状況判断(Orient)」は、OODAループの中で最も重要なステップだと言われています。このステップで行うのは、自身が持つ経験や文化の特徴、身体的特徴、歴史といったものと観察によって手に入れた「生のデータ」を統合して分析し、「意味・価値判断を含んだ情報」として再構築することです。状況判断が最も重要だと言われるのは、この状況判断次第で最終的に行う行動が大きく異なるからです。では、状況判断にあたって注意が必要なポイントは、なんでしょうか?
OODAループにおいて状況判断(Orient)が成功したと判断するポイントは、「以前の判断の誤りや他者の判断の誤りに気付くこと」だとされています。OODAループは、PDCAサイクルと同じように1度回すことで成功を得られるものではなく、何度も回すことでゴールの達成へと近づいていきます。ですがそれは、毎回の状況判断段階で前回の判断の誤りに気付き、新たな仮説を基に次の行動を起こしていくことが前提となっているからです。
状況判断(Orient)の具体例
- A例:ここの近くの有名なとんかつ屋さんは、今も開いているはずだ。お昼も過ぎてすぐに座れるだろう。
- B例:彼女は今日も体調が悪いはずだ。
- C例:「ゆず風味」というワードには、あまり求心力がないのかもしれない。
③意思決定(Decide)
第3の意思決定のステップでは、最終段階である「実行(ACT)」に向けて何をするかを決定します。このステップで何をするかを決定しますが、前段階の仮説だけでは方向性しか決まっていないため、考えられる行動の選択肢は複数出てくるでしょう。そこで、効果的に意思決定をするためのプロセスを3段階に分けて紹介します。
1. どうなりたいかを確認する
まずは、自分もしくは組織がどうなりたいのかを確認します。
2.考えられる選択肢をリストアップする
どうなりたいのか、ということに対して考え得る行動をなるべく多く出します。
3.一番効果的と思えるものを選択する
「自分がどうなりたいのか」と「行動の選択肢」を照らし合わせて、最も効果的だと思えるものを決めます。
この3段階のプロセスを踏むことで、意思決定を円滑に進めることができます。
意思決定(Decide)の具体例
- A例:今すぐお腹を満たすよりも、おいしいものでお腹を満たしたいので、コンビニではなくとんかつ屋さんに行こう。(どうなりたいか=おいしいものでお腹を満たしたい)
- B例:心配だが、また怒られるのは嫌なので、連絡だけ入れてそっとしておこう。(どうなりたいか=怒られるのが嫌)
- C例:味に自信があり、一度食べてもらえればリピートしてもらえる自信があるので、パッケージの色合いと文言を変えてみよう。(どうなりたいか=一度食べてもらう)
④実行(Act)
OODAループの最終ステップは「実行(Act)」です。意思決定のステップで決めた行動を実践します。
実行のステップが終わると、その後に2回転目のOODAループが始まります。観察のステップでは、実行したことによって現状が変わっているかもしれませんし、変わっていないかもしれません。変わっていても変わっていなくても、その情報は新たな仮説を構築する材料になります。ですから、1回転目のOODAループを終え、次のOODAループを始めるにあたって大切なことは、結果に一喜一憂しないことです。うまくいったとしてもうまくいかなかったとしてもそれは次のOODAループを回すための単なる情報だと捉えて、気持ちを切り替えて2回転目を回すことが最後のステップでのポイントです。
実行(Act)の具体例
- A例:とんかつ屋に向かう。
- B例:ラインで連絡を入れ、そっとしておく。
- C例:パッケージと文言を変える。
⑤ループを回す
「4つのステップ」と銘打ちましたが、OODAループにおける意思決定はこれらの4ステップでは終了しません。再び「①観察」のステップに戻り、状況判断、意思決定を繰り返していきます。
従来の意思決定モデルではその多くが線形(意思決定をして終了)であるのに対し、OODAループはその名の通り「ループ」を回します。すなわち④の「実行」結果は直ちに次の「①観察」の対象として評価され、次の意思決定の材料となります。このように意思決定プロセスのループを描くことがOODAループの特徴であり、強みの要因ともなっています。
OODAループのメリットとデメリット
現代に適した思考法と言えるOODAループにも、メリットとデメリットがあります。
OODAループのメリット
それではOODAループを取り入れることでどのような効果が期待できるのでしょうか?
結果が出るまでのスピードが速い
OODAループにはいかに短時間で効率的に意思決定ができるかという考え方が根底にありますので、緊急事態やトラブル対応に強みを発揮します。スピード感を持って進められる理由として、OODAループは「計画の立案」をして他者の承認を待つことなく、その場の状況の観察・把握から仮説構築に入るため、実行までのプロセスが短くなります。
臨機応変に行動できる
OODAループは現場の担当者が柔軟かつ迅速に、問題解決に向けた意思決定ができるようになります。また、データをもとに何をすべきか判断するスキルを高めることができれば、事前にトラブルを回避することにも役立ちます。
個人の裁量が大きい
OODAループでは個人やチームといった小規模なメンバーでの行動を基本としています。したがって、社員一人ひとりが責任を持って、主体的に対応していくことになります。
OODAループのデメリット
バラバラになりやすい
個人が裁量を持って意思決定をすることができるOODAループは、全体の方向性を擦り合わせておかないと統率が取れなくなる可能性があります。
業務改善には向かない
OODAループは「こんな結果がほしい」ではなく、「こんなことが起きている」という状況を受けて、思考がスタートします。したがって、特定の問題がなく「作業を効率化させたい」「品質を向上させたい」といった業務改善には向いていません。また、効果測定のフェーズがないので、効果を見ながら長期的に改善したり見直しを行うような事業には向かないと言えます。
OODAループとPDCAサイクルの違いと使い分け
先ほど述べたように、OODAループとよく比較されるフレームワークにPDCAサイクルがあります。「この2つのフレームワークのどちらがより優れているか?」という旨の議論をよく目にしますが、本来OODAループとPDCAサイクルは比較されるべきものではありません。なぜかというと、この2つが開発された目的は大きく異なり、それぞれの目的に沿って使い分けられるべきものだからです。
皆さんもよくご存じのPDCAサイクルですが、これがどんな目的で開発されたかをご存知の方は少ないのではないでしょうか?PDCAサイクルはもともと、工場の生産性を高めるために作られたフレームワークです。つまり、工場での生産速度や生産効率といった「決められた工程をいかに低いコストで進め、高い生産性を発揮するか」という課題に対する改善を図るのに最適だとされています。ですから、PDCAサイクルは業務改善に最適なフレームワークですが、そもそも工程が明確になっていないものに対しては、あまり効果的ではないと言われています。
これに対してOODAループは、先にも述べたように意思決定をするためのフレームワークです。ジョン・ボイド氏が身を置いていた戦場のように、不明確で常に変化していく状況の中で、現状にあるものから最善の判断を下し、即座に行動を起こすことを目的としています。ですので、PDCAサイクルのような業務改善ではなく、「起業を成功させる」「新規事業を開発する」といった明確な工程のない課題に対して効果的なフレームワークがOODAループです。
少しまとめると、PDCAサイクルは業務改善といった「How」を考えるのに効果的であり、OODAループは起業や事業開発といった「What」を考えるのに効果的なフレームワークです。では、OODAループの使いどころが分かったところで、実際にどのようにOODAループを回していくか、それぞれのステップについて解説していきます。
OODAループを組織で実践するポイント
ここまでOODAループの一連の流れをご紹介しました。実際に組織においてOODAループを導入する場合のポイントについて確認したいと思います。
OODAループは短時間で効率的に意思決定をしていくことを目的にしているため、個々の裁量権が大きくなる傾向にあります。個々の意思決定が組織の方針とかけ離れたものにならないようにするためには、判断基準となる会社の理念が全社員に浸透していることが重要になります。
アチーブメントHRソリューションズの理念浸透サーベイは、約120の質問に基づいて、組織の理念浸透度を詳細にレポーティングいたします。組織に浸透している要素と浸透していない要素が浮き彫りになり、重点的に取り組むべき課題の優先順位が明確になります。その上で対象者を選定し、効果的な研修方法を実施することをおすすめします。
全社員にしっかりと理念が浸透したことを再度サーベイで確認できたら、先ほどご紹介したOODAループの各ステップの精度を高めていく研修や実践経験を積むようにしましょう!
まとめ
今回の記事ではOODAループとは何か、PDCAサイクルとの違いは何か、OODAループはどのように回すかについて説明してきました。OODAループは、変化が激しく先の読めない現代において、今あるもので判断し実行する重要性を示唆しています。このOODAループは現在あらゆる組織で活用されており、起業と新規事業においては、OODAループを活用した「リーンスタートアップ」が開発され注目されています。皆さんが今、先の読めない状況で何をするべきかに悩んでいるとしたら、この記事を参考に、OODAループの1回転目を回し始めてみてはいかがでしょうか?
また、業務の改善に効果的なPDCAサイクルについてもご紹介させていただきました。アチーブメントHRソリューションズのPDCA研修では、計画・実行・検証・改善のサイクルの回し方を体験ワークの中で体験していただきます。また、現場への落とし込みを支援し、自主自立型の人材へと成長するターニングポイントをご提供いたします。
OODA LOOPの書籍紹介
少し癖があるため読み応えがあります。ですが、OODAループの解説だけでなく、即行性のある組織の作り方についても述べられているので、行動力のある組織をつくりたい方におススメの一冊です。