タレントマネジメントは、それぞれの人材が持つ得意領域やスキル・資質を把握し、適材適所への人材配置や育成に活かすマネジメント手法です。今回は、そんなタレントマネジメントがどのような目的で導入されているのかや、導入のプロセスをご紹介します。また、導入する際の注意すべき3つのポイントと、タレントマネジメントを実際に導入している企業も、参考としてご紹介します。
タレントマネジメントとは?導入手順や目的、効果まで解説します
- タレントマネジメントとは
- タレントとは
- タレントマネジメント2つの定義
- タレントマネジメントの具体像
- タレントマネジメントが注目される背景
- 経営戦略の多様性
- 働き方の多様性
- タレントマネジメントを導入する目的
- タレントマネジメントを導入する効果
- 人材配置の適正化
- 効果的な人材育成の達成
- タレントマネジメントの効果的な導入ステップ
- 導入STEP1:導入体制の整備
- 導入STEP2:導入目的とタレントの定義
- 導入STEP3:人材データの整備と分析
- 導入STEP4:マネジメント施策の計画と実行
- 導入STEP5:タレントマネジメントの効果測定と見直し
- タレントマネジメントの導入時に注意すべきポイント
- タレントマネジメントのことを中心人物が理解しているか
- 膨大なタレント情報を活用するためのシステムがあるか
- 全社員が重要性を理解しているか
- タレントマネジメントを導入したベンチャー事例
- 株式会社ソネット・メディア・ワークス
- ピクスタ株式会社
- 株式会社ディー・サイン
- タレントマネジメントシステムとは
- タレントマネジメントシステム誕生の背景
- タレントマネジメントシステムの主な機能
- 人材プロファイル作成
- 人材育成計画・次世代人材の管理
- パフォーマンス評価・管理
- タレントマネジメントシステムのメリット・デメリット
- タレントマネジメントシステムのメリット
- タレントマネジメントシステムのデメリット
- タレントマネジメントシステムを運用する際のポイント
- タレントマネジメントに関する、社内の十分な理解
- データを基軸とした思考を意識する
- 人事戦略や育成計画とリンクさせ、長期的視野で運用する
- タレントマネジメントシステムのサービス比較5選
- おすすめ1:カオナビ
- おすすめ2:HITO-Talent
- おすすめ3:SAPサクセスファクターズ
- おすすめ4:Talent-Pallet
- おすすめ5:sai・reco
- まとめ
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントとは、自社に所属する社員の「タレント」を把握し、それを活かしてマネジメントすることです。このタレントマネジメントを理解してもらうために、まずはタレントとは何か、次にタレントマネジメントの定義、最後にタレントを活かして何をマネジメントするのかを紹介します。
タレントとは
タレントとは元来、人のもつ才能・素質・技量という意味を持ちます。
タレントマネジメントではタレントとは、企業に所属する社員が個人毎にどの領域に明るく、どのようなスキルがあるのかなどの社員の持つ才能・素質・技能にフォーカスして定義されています。
タレントマネジメント2つの定義
タレントマネジメントは人材の流動性の高い米国において1990年代に企業に優秀な人材を定着させさらに効果的な育成を実現するための手法として誕生しました。そして昨今日本でも注目されているこのタレントマネジメントには米国に存在する2つの人材マネジメント組織によって、2つの定義に分かれて存在しています。
SHRM(全米人材マネジメント協会)定義
SHRM(全米人材マネジメント協会)は1948年に創設され約165カ国に約28万5000人の会員を擁しており、主に人材マネジメント理論の体系化、資格認定などを行っています。
2006年に同協会が発表した定義では、タレントマネジメントとは以下のようになっています。
人材採用・育成・管理などのマネジメントプロセスを改善し、職場の生産性を改善すると同時に優秀人材の維持・能力開発を戦略的に進める取り組みやシステムデザインを導入すること。
ATD(米国人材開発機構)定義
ATD(米国人材開発機構)は1994年に設立された約100カ国以上の国に約4万人の会員を持つ非営利団体で、人材開発などに関する世界最大の会員制組織です。主な活動としては人材開発や組織開発に関するカンファレンス・セミナー開催、書籍の出版を行っています。
2009年に発表された定義では、タレントマネジメントとは以下のようになっています。
人材採用・開発・管理などの人材マネジメントの生産性向上のため職場風土(Culture)、仕事に対する真剣な取り組み(Engagement)、能力開発(Capability)、人材補強/支援部隊の強化(Capacity)の4つの視点から短期的・長期的な取り組みを行うこと。
2つの組織の設立背景や活動方針・内容の違いはタレントマネジメントの定義にも影響を及ぼしており、若干の差異が見受けられます(BizHintHR「ASTD・SHRMそれぞれのタレントマネジメントとは?」)。しかし基本的にはタレントマネジメントとは人材採用・育成・管理などの生産性を改善させるための戦略やそれに準ずる施策などを総合的に指すようです。
タレントマネジメントの具体像
タレントマネジメントは具体的には、人材のタレントによる適材適所な配置やタレントデータを活用した本人へのフィードバックによるモチベーションの維持・向上などを行います。また、管理だけに留まらず経営戦略と掛け合わせた戦略的な人材育成もカバーしており、タレントごとのパフォーマンスの最大化や成長を促すために育成計画や施策などを講ずるなど、多面的な機能を持つことも特徴です。
タレントマネジメントが注目される背景
それでは、タレントマネジメントが注目されるようになったのは、どのような背景があるのでしょうか?
経営戦略の多様性
現代は、VUCAの時代と言われています。「VUCA(ブーカ)」とは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものであり、予測が困難な現代の社会やビジネスの状態を表しています。 このような社会においては、確実に勝利が約束された経営戦略というものは存在しません。したがって、社員一人ひとりのタレントを活かして、組織が成果を上げるための戦略を見つけていく必要があります。
働き方の多様性
社員の多様化もますます進んでいます。以前は終身雇用・年功序列という雇用モデルが確立されていましたが、現在は成果主義やジョブ型雇用も広がりを見せています。したがって、社員一人ひとりがタレントを発揮することによって、個人と組織が「選び選ばれるWin-Winな関係」を築いていくことが重要視されています。
タレントマネジメントを導入する目的
タレントマネジメントの最大の目標は、企業が描く経営戦略を人事戦略の視点から実現することです。
そのために、スキルや経歴などの人材情報を基に社内にいる優秀な人材を見つけ出すと共に、全社員が各々もつ得意領域やスキルを活かせるような人材配置の実現を目的としています。
タレントマネジメントを導入する効果
人材配置の適正化
これまで日本企業の人事戦略における人材配置と育成の考え方というのは、新卒入社した社員をジョブローテーションの中でまんべんなく部署を経験させていくというものでした。
しかし、時代の流れによる昨今の顧客と企業の関係変化や新興国への生産拠点シフト、技術革新サイクルの短期化などによる日本国内のビジネスモデルの変化、ベンチャー企業の台頭によりこれまで多くの企業で行われていた従来型の人材配置や育成の手法では市場の変化スピードに遅れてしまう事態が予見されました。日本の企業はビジネスモデルの更新はもちろん、人事戦略についても時代に合わせた柔軟な変化を求められるようになりました。
タレントマネジメントを導入することによって、人材配置の最適化を実現し、スピード感あふれる柔軟な人事戦略を実行する事を助けるという視点ではベンチャーの人材戦略との親和性が高いと言えます。
効果的な人材育成の達成
タレントマネジメントは、現在から将来にわたって求められる人材像を明確な判断基準として設定しているので、会社が求める人材像に達するために不足しているスキル・知識・経験を可視化し、人事は結果を踏まえたギャップを埋める育成計画を常に更新する事ができます。また、スキル不足を補うためのピンポイントな研修やトレーニングを実施するなど、効率的な人材育成を推進する事が可能になります。
現在日本企業を取り巻くビジネス環境は激しい変化の波が渦巻いています。その影響は企業で働く人にも及んでおり、これまでのスキル・知識・経験では対処が難しい新しいビジネス課題への直面など、そこで働く人に対しても進化を求めるようになりました。大手企業と比較して、人材育成にも効率性やスピードが求められるベンチャーでは人材育成の効率化を促す面でも目的にマッチします。
タレントマネジメントの効果的な導入ステップ
タレントマネジメントは無駄の無い人材配置や効率的で早いスピード感で実施する人材育成の達成を目的としているためベンチャー企業での親和性が高いと言えます。それでは実際にどのようなステップを踏んでタレントマネジメントを導入すれば効果を最大化できるのかをご紹介します。
導入STEP1:導入体制の整備
タレントマネジメントを実施する前にまずは環境の整備です。
タレントマネジメントは性質上、人事部のみで完結する事はなく組織をまたいだ横断的な施策が実施されます。そのためには経営陣を初めとして様々な人間がタレントマネジメント戦略に携わります。
まずはタレントマネジメント導入の主導機関である人事担当者の立ち位置や果たすべき役割を明確にし、その上で関係各所との連携を強めタレントマネジメントの導入に最適な組織体制へと整備する事が必要です。
- タレントマネジメント導入の合意
- 人事担当者の立ち位置や果たすべき役割の明確化
- 関係各所への協力依頼事項の明確化
導入STEP2:導入目的とタレントの定義
タレントマネジメントは人材戦略があってこそ効果を発揮します。まずは自社の経営戦略の中で人材戦略を通して何を実現するのか、どう経営改善に活かすのかなどを明確にする必要があります。そして策定された人材戦略に基づいて次のステップではどの様なタレントが欲しいのかを明確化していきます。
タレントの定義には主に自社にとって「即戦力として活用できる人材」 と「長期的に成長可能性がある人材」の二軸で設定します。
定義するタレント像はできる限り具体的である事が望まれます。会社の将来的な目標に合致する求められる人物像を策定しましょう。またタレント像は自社の定めたバリューなどに紐づけて表現すると社内理解が得られやすくなります。
- 自社の経営戦略を支える人材戦略の立案
- 「即戦力型」か「成長型」の人材バランスを決定
- 明確に具体化された「タレント像」の設定
導入STEP3:人材データの整備と分析
タレントの定義の次に行うのは、人材データの収集を行い定義したタレント要件を満たす人材がどの部署にどのくらい存在しているのか、算出された割合は自社の経営戦略上において十分な数字と言えるのかなどを整理・分析して正確に把握する作業です。この過程では様々なフォーマットでデータが散在していたり、重複するデータがいくつも存在したりしているためデータの洗い出し・整理を行い高精度で扱いやすいものに加工・整理しデータクレンジングを行います。
ベンチャー企業の利点としては、規模が小さい事が多く人材データの整理が大規模企業に比べスムーズに進行できる点が挙げられます。
- 社内の全部署の人材データを吸い上げる
- 重複するファイルや異なるフォーマットデータの統合
- 設定した必要タレントの現在数値を計測
導入STEP4:マネジメント施策の計画と実行
前項では人材データの整備と分析によって洗い出された自社の状況と人材戦略を照らし合わせギャップを明確にしました。ギャップを明確にした後は、どのようにしてギャップを埋めていくかを計画していきます。
ギャップを埋める方法としては「新規人材の獲得」と「既存人材の育成」の二つのアプローチが存在します。アプローチの組み合わせは経営環境や人材戦略によって企業ごとに変動します。
アプローチの判断は自社にとってタレントの補充が先なのか、既存人材の育成で間に合うのかなどの視点を基に、現場のオペレーションへの影響度や組織文化への影響、経営陣のサポートを得られるかなどの観点を合わせて総合的に判断していく必要があります。
タレントマネジメントを通して実行される施策としてはアプローチ毎に以下の施策が存在します。
「新規人材の獲得」の施策としては、「新卒採用」「中途採用」など採用を主軸としています。
「既存人材の育成」の施策としては「ジョブローテーション」「OJT」「外部研修」「eラーニング」「コーチング」などがあります。
- 必要タレントの現在数値と将来必要数値とのギャップ抽出
- 「新規獲得」と「既存育成」のアプローチを計画する
- アプローチ計画に沿った各施策を実行する
導入STEP5:タレントマネジメントの効果測定と見直し
タレントマネジメントは性質上、短期的に売り上げが上昇するなどのビジネスへの直接的な影響が見えにくく効果の測定が難しい手法です。しかし効果測定を行わなければ施策の評価も改善も行えず、社内に効果を説明できなければ現場の理解とサポートを得る事も難しくなります。
当初に立てたタレントマネジメントの目的とタレントの定義を基に効果指標を設定しましょう。その後行う測定は前述の効果測定の指標を共有した上で、タレント対象社員のマネジメント層へのヒアリング、個人成績やプロジェクトの成果分析などを通して行われます。この様に施策のモニタリングを常に行い、効果が見込めていない場合は原因を抽出し適宜見直しを行う事が重要です。
- タレント定義に沿った指標による効果測定
- タレントポートフォリオを作成する
- 施策の見直しとサクセッションプラン(後継者育成)の立案
タレントマネジメントの導入時に注意すべきポイント
タレントマネジメントのことを中心人物が理解しているか
タレントマネジメントへの理解不足は優秀な人材を見逃し、人材の成長を妨げます。タレントマネジメントの導入は人事担当者のみで完結するものではなく、経営陣を初め多くの部署にまたがって関係者が存在します。中でも人事担当者、経営陣、部署マネジメント層などのタレントマジメントの機能中枢を担う人間たちの理解不足はタレントマネジメント体制の崩壊につながりかねません。
その中でも特に経営陣は関心を寄せて主体的に取り組んでいく必要があります。
なぜなら優れた人材を活用し育成する事は、組織の成長につながり事業の成長につながるからです。自社の将来を左右するタレントについて十分な理解をしておく必要があります。
膨大なタレント情報を活用するためのシステムがあるか
タレントマネジメントを実施する上で社員の個人情報・経歴・スキルなどの人材データの活用は生命線ともいえます。適正にデータを活用するにはデータを一元管理する必要があります。しかし闇雲にデータを集めてしまったがばかりに異なるフォーマットや重複する情報が膨大に手元に届き、かえって混乱を招いてしまったというケースも存在します。
データをどこに集め、どのような形で整理をするか、人材データを参照する際の流れなどデータ管理は自社で利用しやすいように環境を整えなければなりません。そのためには、データ整理のためのフォーマット作成や、データクレンジングを通して、膨大な情報を統合して整理するなどの取組みが必要不可欠です。
この点で、タレントマネジメントに特化した、データの活用をサポートするシステムやサービスの導入は、データ管理を容易にし、タレントマネジメントの推進に大きく役立ちます。
全社員が重要性を理解しているか
タレントマネジメントを推進していく上で各部署の評価データの共有やタレントに基づいた適材配置に際して人材の受け入れ、業務の引継ぎなど社内で多くの協力を必要とします。
そのため全社規模でタレントマネジメントの必要性や重要性の理解がなされていないと協力を得づらくなります。協力を得られなければ、情報不足や施策のスピードが落ちるなどタレントマネジメントの機能不全を起こす要因になります。特に組織としての規模が小さいベンチャー企業では、ほぼ全社規模でのアナウンスが必要だと考えていいでしょう。
タレントマネジメント導入への社内理解を得るためには、まず経営層からタレントマネジメントについて全社的に周知し、人事担当者など主体的にプロジェクトに取り組む人たちが理解や必要性の啓発のための説明を入念に行っていくなど地道な努力が必要になります。
タレントマネジメントを導入したベンチャー事例
これまでタレントマネジメントの定義や目的・導入のステップなど体系的にタレントマネジネントについて解説してきました。それでは実際にタレントマネジメントを導入した企業には人事・組織の面でどういった特徴や背景が存在したのでしょうか?実際にタレントマネジメントを導入しているベンチャー企業3社をまとめてみました。
株式会社ソネット・メディア・ワークス
インターネット広告サービス事業を展開する社員数85名のベンチャー企業。
2015年にマザーズ上場を果たし成長フェーズに伴う社員数の急激な増加を通して、社員間のコミュニケーション活性化と経営者による人材マネジメントの必要性を感じ、タレントマネジメントを導入。海外展開が決定し社員の語学スキルや海外経験などの有無を把握する必要が生じた場合に備えたいという背景もありました。
ピクスタ株式会社
写真・イラスト・動画素材のマーケットプレイス事業を展開する社員数57名のベンチャー企業。マザーズ市場への上場をきっかけにMBO(目標管理)形式の人事評価へシフトした同社。新しい人事評価制度は上司と部下間で目標の合意を取り、その達成度合いを上司が評価するもので評価には数値や自己評価、上司のコメントなどで多角的に評価を実施しました。
しかしフォーマットやファイル管理も上司ごとに異なり、また会議資料として利用する際にもエクセルだと煩雑で一見してわかりにくいという課題がありました。その様な経緯からタレントマネジメントを導入した同社ですが、結果的にフォーマットやファイル形式を統合し一元管理化が実現し集計や管理の負担が軽減しました。
株式会社ディー・サイン
株式会社ディー・サインは働き方改革に伴う様々なワークスタイルの普及と推進をオフィスデザイン・構築の面からサポートする社員数49名のベンチャー企業です。
同社は外出先で仕事ができる「ノマド制度」を採用し全体の8割程度の社員が利用しており 社員の自由度や裁量性が高いのが特徴です。そのため同社では50人規模ではあるものの自由を担保できる組織づくりの重要性に着目しました。
同社では、タレントマネジメントシステムを導入することで、紙媒体やエクセルで散在管理されていた人材データの一元管理を始めました。そしてそのデータを組織作りに活かすと共に、機動的な人材配置や育成を目指しています。
タレントマネジメントシステムとは
それではここからは、タレントマネジメントを実施する上で必要な機能を備え、その効率化を図るためのシステムについて解説いたします。社員が持つ基本情報やスキルを把握・分析し、それを用いて戦略的な人材配置や人材育成を行うことによって、社員の能力を最大限に活用する取り組みが求められています。
タレントマネジメントシステムは、そうしたタレントマネジメントの効率化を補助するツールのことを指します。グローバル化や情報化が進み、常に激しく変化する経営環境の中で効率的な人事戦略を実現するためにも、タレントマネジメントシステムの導入は多くの企業が検討すべき施策であるといえます。
タレントマネジメントシステム誕生の背景
タレントマネジメントシステム誕生の背景についても押さえておきたいと思います。3つご紹介します。
タレントマネジメントの課題解決
タレントマネジメントは1990年代にアメリカの人材関係者の間で生まれた考え方で、日本では労働人口の現象が問題視され始めた2010年代より注目を集め、本格的に普及し始めました。タレントマネジメントシステムが誕生した背景は、このタレントマネジメントの普及に伴った人事課題の表出です。
タレントマネジメントの普及は人事課題の認識にパラダイムシフトを起こし、優れた人材の獲得競争から限りある人的資源の効率的な管理と育成にシフトしていく中で、業務的な部分での効率的な人事管理の方法が求められるようになりました。そうした経緯の中、効率的な人材管理を実現するタレントマネジメントシステムはまさに課題解決のカギとして誕生したのです。
多様化・複雑化する情報管理需要
また、昨今においては、シェアリングエコノミーの登場など、消費者のニーズや行動形態が激しく変化しています。そのような経済環境において、企業は様々な課題に対して柔軟に対応する必要性が生じてきました。その実現には、激しい変化に対応できる人材の存在が必要不可欠であり、適性のある人材を社内から探す際に情報管理需要が現れ、タレントマネジメントシステムの必要性が説かれ始めました。
HRtechの発達
技術の発展も大きなポイントです。HRtechとは、人材資源をあらわす「Human Resource」とICTやAIなどの科学技術をあらわす「Technology」を掛け合わせて作られた言葉です。特に人材領域においては、AIやICT技術を活用して人材データの収集・管理や採用・育成における情報サポートなどを行うシステムやツールを指します。
HRtechは、2010年代よりアメリカで普及が始まりました。人事領域にもイノベーションの波が押し寄せ、様々な領域で情報の効率化・一元化を行うツールが登場しています。タレントマネジメントシステムもその一つであり、日本でも急速に普及が進んでいます。
タレントマネジメントシステムの主な機能
ここまでタレントマネジメントシステムが誕生した背景をご紹介しましたが、背景の一つでもあったHRtechの発達により、現在の市場には数多くのタレントマネジメントシステムがリリースされています。タレントマネジメントだけに特化したサービスから離職予防機能や、社内のコミュニケーション活性化を目的とした社内向けのプロフィール公開機能をプラスしたサービスなど、仕様は開発企業ごとに異なります。
本項ではタレントマネジメントの実行支援のための機能を持つシステムをタレントマネジメントシステムと定義して、その主要な機能を紹介したいと思います。
人材プロファイル作成
タレントマネジメントシステムの必須機能ともいえるのが、人材についての基本情報・経歴・スキルなどを可視化して管理するプロファイル作成機能です。自社に所属する人材の経歴や資格をはじめ、保有している知識・スキルから価値観・コミュニケーション能力・職務適性まで幅広く入力できます。システムには権限があれば誰でもログインできるため、人事担当者の負担を分散できます。
また分析機能もあり、スキルデータや特性などの項目をグラフなどで可視化して比較することが可能です。会議の資料を作成する際にも活用できます。
人材育成計画・次世代人材の管理
タレントマネジメントシステムには育成計画の管理機能も存在します。
全体研修などの実施履歴の保存や、個人ごとのスキルレベルに合わせた学習計画の策定や進捗管理まで行えます。また社員が社外で取得した資格や受講した研修などの情報も収集・管理でき、その資格やスキルの活用が見込まれる新規事業や部署への柔軟な配置のサポートに利用できます。また研修や資格に有用性を見出せば自社の育成プログラムとして正式に取り入れることもできます。
数多くの機能の中でも、近年注目されているのは次世代リーダーのマーク機能です。会社の将来を担う経営ボードメンバーやマネージャーになりうつポテンシャルを持つ人材をデータから抽出し育成計画を立て次世代リーダー人材として管理することが可能です。
パフォーマンス評価・管理
タレントマネジメントシステムには社員のパフォーマンスを管理することができる機能があります。
人事評価制度として目標管理制度をとっている企業では、目標を立てる際にタレントマネジメントシステムに登録している人材の適性やキャリアの志向などのデータを参照して設定することで本人も腹落ちしてモチベーションを維持しながら取り組める一貫した目標を立てることができます。
パフォーマンス評価は従来、実施者と評価者の間で認識のズレやコミュニケーション不測、評価者の主観が混じった評価により透明性が曖昧になりがちでしたが、前述のデータに基づいて設定した目標と評価基準を設定することによって評価に客観性が担保されます。
タレントマネジメントシステムのメリット・デメリット
タレントマネジメントシステムには、多様な機能があることがわかりました。その流れで、タレントマネジメントシステムのメリット・デメリットについても見ていきたいと思います。
タレントマネジメントシステムのメリット
まずはタレントマネジメントシステムのメリットです。3つご紹介します。
社内タレントの効率的な活用
タレントマネジメントシステムを活用すれば、個人のパフォーマンスを最大限に伸ばす効果的な人材育成や、適材適所の人材配置を行うことができます。また、意外な潜在能力を持っていた人材の発見など、社内に埋もれていた才能を発掘することもできます。
より適切な人事評価を行える
タレントマネジメントシステムは人材情報を整理・可視化します。可視化された人材情報をもとにすることで、個人ごとの能力や経歴を照らしあわせながら、より適切な人事評価を行うことができます。データをもとにした客観的な評価を行うことで、社員の納得感も高まります。
業務の大幅な効率化
タレントマネジメントを実施する上では、人材情報の整備やこまめなデータ管理が必要になります。自社に所属する社員の人事情報を全て収集・管理し、必要があれば更新するといった業務は、人力で行うにはあまりにも膨大な作業です。タレントマネジメントシステムを使うことによってその課題は解決され、大幅な業務の効率化が期待できます。
タレントマネジメントシステムのデメリット
一方、タレントマネジメントシステムにはデメリットも存在します。こちらは2つご紹介します。
社員に浸透せず、十分なデータが集まらない場合がある
タレントマネジメントシステムはその性質上、社員のデータに関してはその社員自身が情報を入力する必要があります。社員が導入の意図を理解しておらずにシステムを使いこなせなければ、十分なデータが集まらず運用に支障が出る可能性があります。
根本的な人事戦略を見直す必要が出てくる
タレントマネジメントシステムは、単にシステムを導入するだけでは終わりません。それは、企業の根本的な人事戦略にも影響してきます。そのため、タレントマネジメントシステムを活用するためには、既存の人事制度を見直し、新たな人事制度を制定する必要が出てきます。
タレントマネジメントシステムを運用する際のポイント
タレントマネジメントシステムは様々な魅力をもったツールですが、先ほどのデメリットの項でもお伝えした通り、導入しただけでは効果は出ません。本項では、タレントマネジメントシステムを活用する際のポイントを解説します。
タレントマネジメントに関する、社内の十分な理解
タレントマネジメントシステムを適切に運用するためには、まずはタレントマネジメントについての理解をしっかりと持っている必要があります。人事担当者や経営層だけでなく、各社員がその本質を理解し、納得感を持ったうえで、組織全体で運用を行っていく必要があります。社内研修を行うのも一つの手段です。
データを基軸とした思考を意識する
タレントマネジメントでは人材に関連する様々な種類のデータを集め、利用することが主なアクションになります。また、適材適所の人材配置や効率的な人材育成を推進する上での計画や施策は、タレントマネジメントシステムに存在する人材データを根底に設計されなければなりません。人事担当者は、常にデータに基づいて思考することが求められます。
人事戦略や育成計画とリンクさせ、長期的視野で運用する
タレントマネジメントシステムの運用は根本的な人事戦略にも影響するため、自社の人事戦略や育成計画と常にリンクさせて運用する必要があります。単なるシステムを導入すると捉えるのではなく、人事改革の一環として導入するぐらいの心構えが重要です。また、データの収集から実際の運用を行い、成果が出るまでには時間がかかります。そのため、長期的視野に立って運用していくことをオススメします。
タレントマネジメントシステムのサービス比較5選
ここまでタレントマネジメントシステムについて体系的にご紹介してきました。社内で活用するイメージはわいてきましたでしょうか?
最後に、タレントマネジメントシステムの主なサービスについてご紹介していきます。今回はその中でも、汎用性が高い5つのおすすめサービスをご紹介します。是非サービスを比較・検討する際にご活用ください。
おすすめ1:カオナビ
株式会社カオナビが提供するクラウド型タレントマネジメントシステムです。
人材データに識別がしやすいように顔写真を登録することができ、人材の配置や抜擢・評価をシステム上で行うことができます。文字ベースのデータでイメージがわきにくいという課題を解決しています。分析機能にも秀でており、男女・年齢をはじめさまざまな切り口で自社の人材情報を可視化してくれます。
おすすめ2:HITO-Talent
株式会社パーソル総合研究所が提供するクラウド型タレントマネジメントシステムです。
このシステムは人材サービス大手として知られるパーソルキャリアの人事部と共同で開発されており、プロフェッショナル向けのシステムとして知られています。直感的でシンプルなインターフェースでありながらデータベースの管理項目に限界が無く、人材配置・組織開発・新規事業におけるタスクフォースの立ち上げ・管理など応用の幅が広いシステムです。
おすすめ3:SAPサクセスファクターズ
システム大手のSAPジャパン株式会社が提供するクラウド型タレントマネジメントシステムです。
クラウド型タレントマネジメントシステムの市場ではグローバルプロパイダーとしての位置を確立しており、世界的に多くの企業で活用されているシステムです。主要機能に加えて、採用管理・人材分析などさまざまな機能を網羅しています。
特に長けているのは人事評価機能で、360評価・目標管理・業績評価などタレントマネジメントをさらにアップデートする機能が搭載されています。
おすすめ4:Talent-Pallet
Talent-Pallet – 株式会社プラスアルファ・コンサルティング
株式会社プラスアルファ・コンサルティングが提供するクラウド型タレントマネジメントシステムです。こちらのシステムも、人事情報のデータベース化・分析などの主要機能を網羅しつつ、「従業員満足度調査」などのアンケート機能による社員のモチベーション可視化機能を搭載しており、離職防止を目的としたモチベーションリスク管理に強みがあります。
おすすめ5:sai・reco
株式会社アクティブ&カンパニーが提供するクラウド型タレントマネジメントシステムです。
このシステムはHRオートメーションシステムと銘打っており、人事が抱える情報入力や管理などの定型業務の自動化を主な強みとしています。人材情報を自動収集し整理することにより効果的かつ効率的にタレントマネジメントを実行できる環境を整えることができます。通常の人材データ管理だけではなく、ワークフローや給与明細情報とも連携でき総合的な人材データベースの構築が可能になります。
まとめ
タレントマネジメントは効率的な人事戦略を推進していく上で大きな効果をもたらすマネジメント手法です。組織作りにおいても日本は大きな転換点を迎えています。今回の記事ではタレントマネジメントを行う目的や効果的な導入ステップなどをご紹介しました。タレントマネジメントをサポートするタレントマネジメントシステムも誕生し、普及が進んでいます。タレントマネジメントシステムはただ導入しただけでは意味がなく、人材情報を一元管理した上で、データに基づいた人材配置や効率的な人材育成に繋げるという意識の中で、情報のハブスポットとして効果的に使用しなければなりません。提供企業によってサービスの仕様も異なるので、活用の際のポイントを念頭においた上で、自社に合ったシステムを選んで活用し人事戦略の推進にお役立てください。
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