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インストラクショナルデザイン~大人の学びを科学するための研修設計~

インストラクショナルデザイン~大人の学びを科学するための研修設計~

「研修がうまくいかない」と悩む教育担当者の方は多くいらっしゃいます。2020年厚生労働省の能力開発基本調査によると、「能力開発や人材育成に何らかの問題がある」と回答した企業は74.9%にも及びました。多くの企業が研修や教育にまつわる課題を抱えていることがわかります。今回の記事では、効果的に効率よく研修の成果が得られるインストラクショナルデザインの考え方をご紹介し、業績向上に繋がる研修設計のコツを解説いたします。

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研修の目的とゴール

研修の目的は、ずばり人材育成です。それではどのような人材が育成できれば会社の業績向上に繋がるのでしょうか?現代は様々な問題が混沌とする不確実で複雑な社会です。その中では「自ら学び、自ら考え、自ら行動する人材」が最良の答えを導き出し、期待以上の成果を上げることができます。

それでは「研修のゴールはどこにあるのか」ということを考えてみましょう。あなたならこの問いにどのように答えますか?多くの企業や研修会社は「受講生が学びを得ること」をゴールとして研修設計を行っています。しかし、最終的なゴールは個人や組織の業績向上という「結果」です。そのためには「やって終わり」の研修ではなく、受講生が学んだことを現場での実践に結びつけ、個人や組織の結果に繋がる行動変容を起こせるようになることが重要です。そのような行動の定着を目指して研修設計を行いましょう。

研修がうまくいかない3つの理由

しかしながら時間やコストをかけて研修に力を入れても、そもそも「研修が成果に繋がらない」「社員がうまく育たない」と嘆く人事担当者の方は多いです。なぜ従来の研修ではうまくいかなかったのでしょうか。考えられる理由をご紹介します。

単発で場当たり的な研修になっている

これは課題の深掘りや現場のヒアリングを行うことなく、マネージャーならマネジメント研修、営業職なら営業力研修といったように、役職や立場ごとに決められた研修を行う、前年踏襲で毎回同じ研修を開催しているといったことが挙げられます。これでは真の問題解決には繋がらないでしょう。

単純な知識付与型の研修になっている

これは「単に知識を提供する」「教え込む」といった研修を行っている場合です。私たちは小学校から高校や大学まで学校教育を受けてきたので、それらの教育の特徴がしみついています。しかし、子どもと大人では効果的な学び方が違いますので、企業においては学校教育と同じ設計ではうまくいきません。

何でも与えすぎの研修になっている

これは研修講師やファシリテーター側がすぐに答えを与えてしまっている場合です。そうなると対象者に自ら考える癖が身に付きません。

大人の学びとは

研修がうまくいかない理由の一つに、子どもと大人では効果的な学び方が違うとご紹介しました。ここでは、大人の学びを概念化した「アンドラゴジー」について解説します。

アンドラゴジーとは?

アンドラゴジーとは、アメリカの成人教育理論家であるマルカム・ノールズによって体系化された成人学習理論の一つです。

子どもと大人の学び方の違い

私たちは物心がつく頃には義務教育を受け、小学校・中学校と続く学校教育の中で、様々な学びを享受してきました。しかし、「子どもの学び」と「大人の学び」には大きな違いがあると言われています。教育理論において子どもの学びは「ペダゴジー」、大人の学びは「アンドラゴジー」と呼びます。それぞれの特徴を以下の表にまとめます。 表からわかるように、大人になると人間的な成熟によって自己決定性が増大し、経験から得られる学びや直面している課題を解決するための学びに重きが置かれるようになります。

表1:ペタゴジーとアンドラゴジーの違い(ペタゴジーとアンドラゴジーの違い(出典:マルカム・ノールズ著『成人教育の現代的実践』, 鳳書房

概念ペタゴジーアンドラゴジー
学習者の概念依存的なもの自己決定性の増大
学習者の経験の役割あまり価値を置かれない
教師や教科書執筆者の経験を利用することが多い
自己や他者にとって豊かな学習資源となる
受動的な学習よりも経験から得た学習の方が大きな意味を持つ
学習へのレディネス1同じ学年で同じことを学ぶ現実生活の課題や問題にうまく対処するための学習の必要性を実感した時に学ぶ
学習への方向づけ教科中心的課題、問題中心的

教育における大人の特徴

大人には大人の特徴を踏まえた教育でなければ効果を発揮できません。教育における大人の特徴として、特に以下の4点があげられています。

  • 学ぶ必要性を理解しないと学ばない
  • これまでの人生経験がある
  • 実践的な話し合いの中で、より深く学ぶ
  • 実利的で役立つものに興味がある

つまり、これらの特徴を反転させた要素を研修に取り込むことが重要なのです。しかし私たちは長年の学校教育の中でペタゴジーのスタイルに慣れてしまっているため、意識的に発想を切り替えなければ、アンドラゴジーの学びを提供することはできません。ペダゴジーの概念を基にして作られた研修は、依存的な人材を育てることになってしまいます。

研修への取り入れ方

それでは、大人の特徴を反転させて研修に取り入れるためにはどうしたらよいのでしょうか?それぞれの特徴に合わせて、研修へ取り入れるポイントをご紹介します。

学ぶ必要性について、対象者に気づきの機会を提供する

大人の研修では、学ぶ必要性を実感できる時間を研修の冒頭に作りましょう。例えば、研修の冒頭でリアルワールドの課題に取り組んでもらい、自分の業務との関連性に気づいてもらうことが有効です。 また、ジョン・M・ケラーが提唱したARCS動機付けモデルにおいても、以下の4つのシンプルなやり方で高い学習意欲を引き出せることが明らかになっています。

  1. Attention:注意「おもしろそうだな」
  2. Relevance:関連性「やりがいがありそうだな」
  3. Confidence:自信「やればできそうだな」
  4. Satisfaction:満足感「やってよかったな」

このように研修の冒頭で「おもしろそうだな」「やりがいがありそうだな」と感じてもらうような進行スライドや構成を工夫することがスタートです。

対象者の人生経験を用いた学習を行う

大人にはこれまでの人生経験がありますので、それを存分に活用しましょう。デービッド・コルブが提唱した経験学習モデルによると、「経験から学習していくには、①経験、②省察、③概念化、④実践という4つの活動を繰り返す必要がある」と言われています。

経験学習モデル

図1:経験学習モデル(松尾睦著『経験からの学習ープロフェッショナルへの成長プロセス』, 同文館出版

より一部改変

普段は忙しくて日々の経験(①)を振り返ることができない社員にも、研修では省察(②)の場を提供し、概念化(③)してもらうことができます。概念化とは気づきを自分の中に落とし込み、一般化することです。この概念化によって、以前の経験を応用したり、再現したりすることができるようになります。そして、気づきに基づいた自分のアクションプランを作成し、現場で実践(④)を繰り返すことを促します。

この経験学習モデルを社員が自分で回せるようになることが「自ら学び、自ら考え、自ら行動する人材」に成長しているということです。

話し合いの機会、ケーススタディ、ロールプレイ等を通じた共同学習を取り入れる

大人は実践的な話し合いの中で学ぶ意欲が高まるということを研修に活かしましょう。実践的な話し合いにするためには、現場で実際に起きている課題や受講生が実際に困っている課題をいかにケーススタディとして用意できるかが非常に重要です。そのためには、事前に現場のヒアリングを欠かさずに行いましょう。また、ロールプレイを取り入れることによって実践的に新たな気づきが得られる効果があります。

現場への落とし込みを随時行い、学びと現場を紐づける

大人は自分の業務や現場に直結した問題解決型の学びに強い関心を示すものです。ケーススタディを通じて話し合いを行った後で、不明点や疑問点に対する回答を例示しましょう。さらに、他のケースでもロールプレイを行って応用力をつけてもらい、課題が解決できそうだという自信をつけてから現場に戻っていただきます。研修で学んだことを活かし、現場で実際の問題が解決できれば研修参加の意義が感じられ、今後の成長サイクルを自分で回していくことにも繋がります。


ここまで大人の特徴を研修の中に取り入れるポイントをご紹介してきました。では、このようなポイントを意識しつつ実際に研修設計を行うにはどうすればいいのでしょうか?その際に役立つ考え方が「インストラクショナルデザイン」なのです。

インストラクショナルデザインとは

インストラクショナルデザインの定義

インストラクショナルデザインは以下のように定義されています。

「教育活動の効果と効率と魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのこと」(鈴木克明監修 市川尚・根本淳子編著『インストラクショナルデザインの道具箱101』, 北大路書房

皆さんは「KKD」という言葉をご存じでしょうか?「勘」と「経験」と「度胸」の頭文字を取ったものです。従来の研修や人材教育はKKDに頼って設計されることも多くありましたが、インストラクショナルデザインはKKDのみに頼らず、学習に関する心理学や教育理論に基づいて、戦略的に効果的・効率的で魅力的な研修設計を可能にするために整理された手法となっています。

インストラクショナルデザインが注目されている背景

日本では2000年頃からeラーニングの普及とともにインストラクショナルデザインが注目されるようになりました。もともとインストラクショナルデザインは第二次世界大戦中のアメリカで生まれました。その後、学際的分野で研究が進み、1980年代以降企業内教育のデザイン手法として幅広く活用されるようになりました。効果性や効率性に優れたインストラクショナルデザインは、世界中で多くの研修プログラムに適用されています。

インストラクショナルデザインの重要性

インストラクショナルデザインが人材教育に与えるインパクトは、以下の3つが挙げられています。(森田晃子著『―改訂版― 魔法の人材教育』幻冬舎

観点影響
効果対象者に実力(知識・スキル・マインド)が身に付く
効率限られた時間の中で最大の成果を出せる
魅力参加者がまた学びたいと思う
研修にやりがいを感じる

研修を設計する上では、インストラクショナルデザインの効果性・効率性・魅力を最大限に発揮することで、成果に繋がる行動変容・行動定着を目指していきましょう。そして 「うまくいった理由」を見える化し、繰り返し安定した成果を出し続けることが「学びを科学する」ということなのです。

まとめ

今回の記事では、大人の学びにはどんな特徴があるのかアンドラゴジーの概念を解説しました。また、それらの特徴を研修に取り入れる考え方としてインストラクショナルデザインをご紹介しました。実際に、インストラクショナルデザインを用いてどのように研修設計を進めていけばよいのかという詳細については以下のコラムで解説しておりますので、ぜひ引き続きご参照ください。

インストラクショナルデザイン~ADDIEモデルに基づく研修設計の実践~

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Footnotes

  1. 前提となる知識・経験・環境など、学習を成立させるために必要な準備状態のこと。

そのマインドセットへのアプローチ、間違っていませんか? アチーブメントHRソリューションズでは、人の行動の根源である「マインドセット」に着目し、個人の「内発的な動機付け」に基づくアプローチによって、人財育成や組織開発を成功に導きます。

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