「奇跡の経営」で知られるセムコ社は、ホラクラシー型の経営をしていることでも有名です。前回の記事では、ホラクラシーとは何か、組織体制とその運用方法の観点からご紹介してきました。今回は、なぜホラクラシー型の組織が効果的なのか、セムコ社CEO、リカルド・セムラー著の「奇跡の経営ー一週間毎日が週末発想のススメ」を基に考察していきたいと思います。
「奇跡の経営」から学ぶ、ホラクラシーを導入するべき理由
奇跡の経営を実現するセムコ社とは?
セムコ社は元々1954年にアントニオ・カート・セムラーが創業した小さな機械工場でした。その後、息子リカルド・セラーが21歳の時に社長を継ぎ、6年の間で売り上げが3500万ドルから2億1200万ドルまで上がりました。もちろんこの急成長も驚くべきことですが、奇跡の経営と言われる所以は、その経営手法が革新的だったからです。
同著から、その経営の一例をご紹介させていただきます。
セムコ社には組織階層がなく、公式の組織図が存在しません。ビジネスプランも無ければ企業戦略、短期計画、長期計画と言ったものもありません。 決まったCEO(最高経営責任者)が不在という事も、よくあります。 副社長やCIO(催行情報責任者)、COO(最高運営責任者)がいません。 キャリアプラン、職務記述書、雇用契約書がありません。 標準作業を定めていなければ業務フローもありません。 (P28,29より抜粋)
にわかに信じられない、という方も多いのではないかと思います。これでどうやってビジネスが成り立つのかと疑問に思うかたもいると思います。しかし、実際にこの奇跡の経営手法で圧倒的な成果を出しています。なぜでしょうか?その答えに迫るには、表面的な制度だけでなく、その制度の導入に至った本質的な考え方に注目する必要があります。それでは、奇跡の経営の根本的な考えとはどのようなものでしょうか?
奇跡の経営には「一週間毎日が週末発想」が欠かせない
奇跡の経営を支える根本的な考えとは本のサブタイトルにもあるように、「一週間毎日が週末発想」です。通常ですと月曜日から金曜日が仕事、週末がプライベートと分けられることが多いです。また、仕事はつまらないこと、プライベートは楽しいことと一般的に認識されています。奇跡の経営はその前提を覆します。つまり「仕事=心から楽しく、幸せと自由なもの」にするのです。
皆さんは自分が本当に好きなことに打ち込んでいる時は、夢中で、誰に何を言われることも無く、主体的に取り組んでいるはずです。高い集中力を維持しながら、時間を忘れてその好きなことに打ち込んでいるはずです。この状態を仕事に持ち込むのが、奇跡の経営の発想です。
高い生産性で知られるセムコ社ですが、会社の生産性とは以下の様にブレイクダウンできます。
会社の生産性 = 社員一人あたりの生産性 × 社員数(入社人数 - 離職人数)
奇跡の経営で実践する「一週間毎日が週末発想」では、一人あたりの生産性は当然のように高まりますが、離職率が大きく低下することも特筆するべき点です。というのも、社員が本当に自分の好きなことをしていれば、当然辞める必要がなくなるためです。さらに、社員が本当に活き活き出来るような会社は、多くの人を惹きつけます。一人あたりの生産性も高く、人数も安定しているからこそ、会社全体の成果も自然上がっていきます。
「一週間毎日が週末発想」に必要な2つの要素
続いて社員一人一人が「一週間毎日が週末発想」を実現できるために会社がするべきことをお伝えします。先ほどお伝えした通り、週末発想に重要なのは、社員一人一人が仕事を本気で楽しむことです。そのためには2つの要素が必要になってきます。
まず一つ目は社員が、自身が本当に心からやりたいような仕事を見つけることです。そして、もう一つは自身が見つけた本当にやりたいことに関して、コントロールされる事無く主体的に出来ることです。それぞれについて、詳しく見ていきます。
社員が本当に好きなことを見つける
セムコ社は、人は誰しも、人生の目的をかなえる手段としての天職を持ち合わせていると考えています。人はのどから手が出るような、人生でなし得たい目的をもち、その目的を叶えるのに必要な天職に巡り合えれば人はその仕事に心から幸せを感じ、やりがいを感じ、楽しみをおぼえます。
「自分が「やりたい」という意欲が持てない仕事は、はじめからするものではない!」という考えに基づき、セムコ社では、社員が天職を見つけられるよう最大限にサポートをしています。例えばジョブ・ローテーションがあります。ジョブ・ローテーションと言っても会社の都合に合わせて社員を異動させるのではなく、社員が職場を自由に選択できることです。「ロスト・イン・スペース」では若手の新入社員向けのプログラムで、入社後一年間、新入社員は社内の業務を好きなだけ経験できます。1つだけ職場を経験する人もいれば3つ、6つの異なる部門で働く人もいます。
また、「ラッシュアワーMBA」では社内教育プログラムの一環で、社員が好きな分野の講義を社内で受けることができます。この制度の背景には、サンパウロのラッシュアワーの渋滞の時間、通勤で二時間も時間を無駄にするより、その時間を自分の興味の向く分野の学習に当てる方がよいだろうという考えから生まれました。社員は、自分の働いている職場に関係なく、好きな授業をとり、自分の興味を広げるための施策です。
このように、セムコ社では社員それぞれが天職を見つけられるようなサポートをしています。
ホラクラシー体制により社員をコントロールから解放する
社員が本当にやりたい仕事を見つけたところで、その仕事内容について上司にコントロールされては、折角の天職も、人から言われてやらざるを得ない、楽しくない窮屈な仕事に代わってしまいます。人は本来、目的や意義がある状態ですと、生産的に、そして能動的に仕事を自ら進んで行います。その状態を妨げないために必要なのが、社員をコントロールしないで、社員に主体的に仕事を行ってもらうことです。
そして、社員の主体性を尊重するのがホラクラシー体制なのです。ホラクラシーでは肩書は存在せず、社員は何をするか、その役割に人が当てられます。奇跡の経営にはまさにこの点が見られます。セムコ社でも何をするかが重要で、社員は自分の名刺を好きなように作れます。ある社員の名刺には「購買責任者のファラオ王」と書いてあったりするそうです。
また、ホラクラシー体制では、組織の運用方法として常に各役割を担う人がみな会議に参加し、チームメンバーで物事を決めます。このようにチームメンバーがみんな会議に存在することで、上司から、目的もやる意義も知らされずに、納得もしていない仕事が振られるという事を避けることができます。また、コントロールを廃止することに関連して大切なことが、情報の独占を事前に防ぐことです。「コントロールをやめることは、すなわち情報の独占をやめることでもあります。」と奇跡の経営でも書かれています。この点に関してもホラクラシー体制では徹底されており、自分の役割に対して行われた行動や次に行う行動は全て、記録する必要があり、ミーティングでも報告することになっております。
このように、ホラクラシー体制では、社員がそれぞれ主体的に自分で仕事を行っていくことを支える、お手本のような組織体制になっております。その一方で、管理無しで社員に仕事を任せては、怠ける社員もいるのではないか?と思う方もいらっしゃるかと思います。その疑念に対して、奇跡の経営では以下の様に答えています。
「一人前の大人の行動を信頼する」
奇跡の経営を実現していく中で一番大事な前提は、社員を信じて任せることです。社員は一人前の大人だと信頼する。そうすると、責任のある大人が自分達でやると決めた仕事を途中で放棄したり怠けたりはしないと思える。大人は立派に責任を果たすだろうから、コントロールをする必要がないということなのです。 実際、セムコスタイルでは、社員に働く場所も時間も自由に決められます。工場で働く人にも同様のフレックス制を導入しましたが、責任のある大人たちは誰に言われることも無く、集まる時間を自主的に決め合い、スムーズに仕事を行っていきました。
まとめ
今回は名著「奇跡の経営」を参考に、ホラクラシー体制を導入する理由について考察してきました。それは、ホラクラシーを導入することで、社員一人一人が自分の人生の目的を主体的に追求でき、彼らの生産性も劇的に上がるということでした。当然、自分自身の人生の目的を追求できる職場ですと離職率も減ります。そのような魅力的な会社は常に人を引き付けます。よって、一人あたりの生産性も高く、社員の人数も安定して増えていきます。その結果、会社全体の生産性も圧倒的に向上します。皆さんも社員の天職を見つけると共に、その天職を生かせる様なホラクラシー体制を採用してみてはいかがでしょうか?
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