女性活躍推進とは、日本社会における女性の活躍の幅を広める取り組みのことです。より多くの女性に社会で活躍してもらい、生産労働人口の減少の解決策の1つとして、近年注目されています。しかし、2015年に女性活躍推進法が制定されてから約4年、働く女性の半数以上がその取り組みの成果を実感していないとの調査結果もあり、まだまだ課題があるようです。今回は、そんな女性活躍推進の課題点や効果的な促進方法などをご紹介いたします。
女性活躍推進とは?女性が活躍する企業の特徴
女性活躍推進とは
女性活躍推進は、2015年に法律として策定された、日本社会における女性の活躍の幅を広める取り組みのことです。法律の正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」と名付けられ、従業員が300人以上の企業では、「自社の女性の活躍状況の把握・課題分析」「行動計画の策定・届け出」などが義務付けられました。現行の女性活躍推進法に記載されている、企業が取り組むべき内容は下記のとおりです。
ステップ1.自社の女性の活躍に関する状況の把握と課題分析
自社の状況と課題を下記の観点で分析する。
・採用した労働者に占める女性労働者の割合
・男女の平均継続勤務年数の差異
・労働時間の状況
・管理職に占める女性労働者の割合等
ステップ2. 一般事業主行動計画の策定、社内周知、外部公表
ステップ1を踏まえて、計画期間、数値目標、取組内容、取組の実施時期を
盛り込んだ一般事業主行動計画を策定し、労働者に周知・外部へ公表する。
ステップ3. 一般事業主行動計画を策定した旨の届出
一般事業主行動計画を策定した旨を都道府県労働局へ届け出る。
ステップ4. 取組の実施、効果の測定
定期的に、数値目標の達成状況や、一般事業主行動計画に基づく取組の実施状況を点検・評価を行う。
女性の活躍に関する情報公表
- 自社の女性の活躍に関する状況について公表する情報を選択し、求職者が簡単に閲覧できるように公表する。
また、令和元年6月5日に改正女性活躍推進法が公布され、下記の3点について修正・追加がされました。
1.一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大
一般事業主行動計画の策定・届出義務及び自社の女性活躍に関する情報公表の義務の対象を、常時雇用する労働者が301人以上から101人以上の事業主に拡大する。
2.女性活躍に関する情報公表の強化
常時雇用する労働者が301人以上の事業主は、下記の情報公表項目の各区分から1項目以上公表する必要がある。
・職業生活に関する機会の提供に関する実績
・職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
3.特例認定制度(プラチナえるぼし\[仮称\])の創設
女性の活躍推進に関する状況等が優良な事業主の方への認定(えるぼし認定)よりも水準の高い「プラチナえるぼし(仮称)」認定を創設する。
女性活躍推進が注目される理由
そんな女性活躍推進は、なぜ必要とされているのでしょうか。
現在日本社会は、少子高齢化や人口減少による労働力不足に直面しています。2065年には日本人口が8808万人まで減ると予想されており、労働力が不足することで日本の経済力が低下し、先進国から脱落するのではないかともいわれています。この課題への解決策を模索する中で、焦点が当てられたのが「女性の就業率」です。総務省の労働力調査によると、非労働力人口4240万人のうち、就業希望者は331万人程と言われています。この就業希望者のうち、237万人が女性だという結果が出ています。このことから、働きたいのに働けていない女性に活躍できる場を提供することで、労働力不足の課題の解消につながるのではないかと考えられたのです。
女性活躍推進の結果が出ない背景
しかし、女性活躍推進法の制定から既に4年余りが経過している中、数字で見る女性活躍推進はなかなか順調とは言えない状態です。
現在日本における女性管理職の割合は上場企業で5.1%、未上場企業で7.2%となっています。業種や職種で大きな差がありますが、平均的に見ると国が掲げる「2020年までに女性管理職の割合を30%にする」という目標からはほど遠い現状があります。なぜ、働きたい女性がこれだけいて、さらに国を挙げて取り組んでいるのにも関わらず、このような状況になっているのでしょうか。そこには、女性社員の前に立ちはだかるいくつかの壁があります。具体的にはどのようなものが障害になっているのか、1つずつ簡単に説明していきます。
必要な指導がもらえず、成長の方向性を見失っている
1つ目の壁は、「必要な指導がもらえず、成長の方向性を見失っている」ことです。女性活躍推進が本格的に始まってからまだ数年しか経っておらず、女性社員を受け持つ上司には男性の比率が多いのが現状です。しかし男性側は、セクハラやパワハラを意識するあまり、女性部下とのコミュニケーションに悩んでいる人がとても多いようです。女性部下とのコミュニケーションに必要以上に配慮する結果、女性部下は自分の弱みに対するフィードバックや、強みに対するアドバイスなどがもらえず、今後の成長に向けた改善の機会が得られずらい状況になっています。
活躍の場数・成功体験の不足
2つ目の壁は、女性社員の活躍の場数と成功体験の不足からくる、成長スピードの差です。例えば、メンバーに男性部下と女性部下が1人ずついた場合、重要な案件であればあるほど、男性部下に依頼するという傾向があるようです。実際、評価や教育、育成の機会は男女平等になっている組織の中でも、「仕事内容が能力の向上とともにステップアップしている」や「仕事を通して、自分の能力が向上している」という点では、男性よりも女性の方が実感を得られていないという調査結果も報告されています。このことから、男性社員と女性社員を比較すると、女性社員の方がチャレンジできる機会や、負荷を感じる機会が少ない傾向にあるのではないかと言われています。機会や経験の不足から、知らず知らずのうちに男女の間で成長スピードに差がついていることが考えられます。
ライフイベントに起因する離職
3つ目の壁は、女性社員のライフイベントに対するイメージです。女性社員の結婚や出産といったライフイベントには、マイナス要素として意識を向けられがちです。実際に、働く女性の9割以上が仕事と子育ての両立に不安を感じ、その約半数が子育てを機に仕事を辞めたり変えたりします。このような状況が、キャリアのリセットを生んでしまい、子育てが落ち着いた後の職場復帰の難しさや女性管理職が生まれない状態を作り出していると言われています。
管理職へのマイナスイメージ
4つ目の壁は、管理職へのマイナスイメージです。以下の図は、「管理職になりたい人の割合」を性年代別に表したものと、「成長を重視している人の割合」を性年代別に表したものです。
(パーソル総合研究所:「働く1万人の就業・成長定点調査2018」より)
1つ目の図から、管理職志向を持つ女性社員の数は管理職志向を持つ男性社員の数に比べると、とても低いのが分かります。しかし2つ目の図を見ると、「管理職志向がない=成長意欲がない」わけではないことも分かります。女性社員が管理職になりたがらない理由は千差万別ですが、「管理職になっても責任が増えるだけ」「今でも大変なのに管理職になったら育児と家庭の両立ができなくなる」「今の管理職についている人のように長時間労働はしたくない」などの、現状の管理職に対するマイナスイメージが大きいようです。管理職としての働き方の多様性が少ないため、なった後の見通しがたたずに大きな障害となっています。
女性活躍推進に取り組む上でのポイント
では、女性活躍推進を進めていくうえでは、何がポイントになるでしょうか。
女性活躍推進への取り組みの中でポイントとなるのは、「社員一人ひとりの本音を知る」ことと、「仕事をあきらめずに済む組織体制をつくる」という2つのポイントがあります。1つずつ簡単に説明していきます。
社員一人ひとりの本音を知る
女性活躍促進を進めていくうえでは、社員一人ひとりの本音を知ることが重要になります。女性社員の本音を知ることで、その人が望む働き方やキャリアビジョンに沿ったマネジメントやサポートが出来るようになります。結婚や出産などのライフイベントを迎えた際に、今と同じように仕事を続けたいのか、時短で業務量を減らして仕事をしたいのか、数年間は育児や家事に専念したいのか、そういった希望を社員が気兼ねなく言えるような組織であるかどうかによって、女性活躍推進の実現が大きく左右されます。特に、女性社員としっかり向き合っていくうえでは、上司と社員の関係性が大きな影響を及ぼします。そのため、女性社員の本音を聞ける組織であるためには上司のマネジメント力も重要なポイントとなります。
仕事をあきらめずに済む組織体制をつくる
女性の成長を促進させ続けるには、入社3-5年目が大切な分岐点だと言われています。なぜなら入社3-5年の間で、結婚や出産というライフイベントを迎える女性社員が多く、キャリアに対する考え方が男女で大きく変わる分岐点となっているからです。20代で出世したいと考える男性社員の数は年々上がり続ける傾向にある一方で、女性社員は入社5年目の時点で入社時と比べて約10%も出世への意欲が低下すると言われています。そのため、分岐点で「会社を辞める」「キャリアを諦める」などの選択をしなくてもいいよう、目標とできる多種多様なロールモデルが身近にいることが重要となります。
女性活躍推進で実際に取り組めること
では、上記で説明した2つのポイントを踏まえた上で、具体的にはどのような取り組みが必要なるでしょうか。
女性活躍推進への取り組み例として、以下のようなものが挙げられます。
女性活躍推進への取り組み例
- 現状を把握するためのヒアリングを行う
- 新しい管理職像への期待を伝える
- 男女ともに働き方を選べる環境づくり
では、一つずつ解説していきます。
キャリアに対するヒアリングを実施する
女性活躍推進を進めていくうえでは、一人ひとりの「なりたい姿」を知ることが重要です。そのために女性社員との面談の場などで、今後のキャリアについて話すように上司に伝えます。例えば、1年後、3年後、5年後、10年後、それぞれどうなっていたいかなどを一緒に考えていく中で、本人の希望や理想を聞くことができます。今後のキャリア観を掴めたら、会社や上司が長期的な視野でその人のキャリアを応援している、期待しているという姿勢を示すことも重要です。
また、上司と部下の面談機会はあるが、「上司から一方的に話すだけで双方向の会話にならない」といった現象が見られる場合には、上司にコーチングなどのコミュニケーションスキルを学習する機会を提供するのも効果的です。
新しい管理職像への期待を伝える
新しい管理職への期待を伝えていくことは、女性活躍推進を進めていくための重要な取り組みの一つです。企業によって、女性に期待している活動の仕方は異なるため、「女性活躍推進」という言葉だけでは「どんな面でどんな活躍を期待しているのか」が社員に伝わりません。そのような状態だと、「管理職者は、誰よりもたくさん働かないといけない」というような固定概念が生まれてしまい、女性が挑戦しやすい雰囲気を作り出すことが難しくなってしまいます。ですから、女性に期待している活躍の仕方や方向性を具体的に伝え、女性社員と企業の考えを一致させることが重要です。また、期待を伝えるときには、同時に女性社員の現在の取り組みや考え方を承認するスタンスが大切です。特に、お互いの意見が異なる際には「〇〇の勉強をしてきたんだね」「そういう考え方もあるね」などの声掛けを行うように心がけ、一方的に価値観を押し付けることがないように上司へ伝えます。
男女ともに働き方が選べる環境づくり
冒頭で話したように、近年の女性には沢山の役割を求められています。「家族を守ること」「社会のリーダー」「日本経済を支える労働者」など、様々な選択肢があり、その中で自分の役割と理想の両立を選んでいかなくてはなりません。もし、企業や上司が管理職や社員として女性に期待をするのであれば、本人を取り巻く環境の支援やサポートしてくことが重要です。特に、「家族を守ること」に関しては、女性が仕事と両立できるような工夫が必要です。例えば、労働時間や育児休暇の見直しは、女性社員だけでなく男性社員にも徹底し、育児や家事が女性だけの負担にならないように工夫をします。また、男女差を判断基準にするのではなく、その人が何を望んでいるかや、その人の能力で(ヒアリングや事実を基に)評価するようにします。「男性だから〇〇」「女性だから〇〇」のような固定概念を持たず、社員一人ひとりと向き合うことで、個々人が自分らしく働けるような環境をつくることができます。
まとめ
女性活躍推進が勧められていく中で、働く女性に求められる役割や選択肢は増える一方で、企業や社会の適切な支援・サポートは、まだまだ十分とは言えません。女性の活躍する場を増やしていく取り組みは、女性だけに向けたものではなく、日本社会に関わる全ての人が取り組んでいく必要のあるものです。男性・女性と分けずに、個人個人が働きやすいと感じる職場環境を整えることを通して、新しい働き方を作り上げていくのです。この記事を通して、より効果的な女性活躍推進に対する方法を考えられている方のお力に少しでもなれば幸いです。
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