選択理論を用いたマネジメント~良好な人間関係をつくる3つのコツ~

公開日: 2021年7月16日  最終更新日: 2021年8月5日

 「成果を求めるあまり、職場の人間関係が悪くなってしまった。」「人間関係を気にするあまり、成果が落ちてしまった。」こんな経験はないでしょうか?現場のリーダーやマネージャーには、高い成果を上げ続ける力と同時に、良好な人間関係を両立する力が求められます。選択理論は人間の行動のメカニズムを理論化・体系化しているため、実践的にこれらの問題解決のための示唆を与えてくれます。
 今回の記事では、選択理論の基本的な考え方をどのようにマネジメントへ適用していくかをご紹介します。職場やチームにおいて、身近なところからぜひ実践してみてください。

選択理論とは?

 選択理論は、アメリカの精神科医ウイリアム・グラッサー博士(1925-2013)によって提唱された心理学です。もともとは1965年リアリティセラピー(現実療法)というカウンセリングを重ねる中で生まれた理論です。リアリティセラピーが他の療法と大きく違うのは、その人の過去ではなく現在に焦点を合わせて、より良い行動の選択を支援する点です。グラッサー博士はこの理論を「コントロール理論」と呼んでいましたが、1996年に「選択理論」へと改名しました。現在、選択理論は学校教育、企業でのマネジメント、刑務所での再教育などに応用され、世界60か国に広がっています。

 選択理論は、脳の働きをベースに人間の行動がどのようになされるのかを理論化・体系化したものです。選択理論では、すべての行動は自らの選択であると考えます。行動を選択できるのは自分だけなので、相手の行動を直接変えることはできません。したがって、問題が発生した時には「怒る」「罰する」といった外部からの刺激によって相手をコントロールするのではなく、相手を受け入れ交渉することで解決します。その結果、良好な人間関係を築くことができるのです。

選択理論における基本的な考え方

 ここからは、選択理論の基本となる考え方を学んでいきましょう。

内発的動機づけ

 選択理論における内発的動機づけは内的コントロールとも言い、「私たちの行動は内側から動機づけられている」という考え方です。これと反する考え方に外的コントロールがあります。外的コントロールとは、「人間の行動は外部(自分以外の人や身の回りの環境)からの刺激に反応することによって起こる」という考え方です。例えば、「私の行動は誰かのせいである」「私は他の人の行動を変えることができる」と考えることは外的コントロールにあたります。私たちは脳によって知覚した情報をもとに、その時の自分にとって最善と思われる行動を選択し、行動していると考えられています。この内発的動機づけという考え方は選択理論の土台となっていることをふまえて、その他の考え方を読み進めてください。

5つの基本的欲求

 みなさんは職場でメンバーとの価値観の違いを感じた経験はないでしょうか。例えば、「新しい仕事を任されたメンバーが困らないように細かく段取りを確認していたら、メンバーのやる気がなくなってしまった」「多少リスクを冒しても新しい事にチャレンジしてほしいのに、なかなかメンバーが動いてくれない」このような食い違いが生まれるのはなぜなのでしょうか。選択理論では、私たちは生まれながらに5つの基本的欲求を持っており、人によってその強弱と満たし方は異なると考えます。また、同じ人であっても個人が持つ能力や置かれた環境によってその欲求のバランスは変わっていくことがあります。

 5つの基本的欲求とは、以下の通りです。


生存の欲求(Survival)

 要素:安全・安定、健康

 これは、食欲・睡眠欲・生殖といった身体的な欲求です。また、リスクを回避し安全を求める傾向が強い場合も生存の欲求に含まれます。規則正しい生活や健康への意識も高いです。例えば、失敗を避けたいがために、やり方を細かく確認することを好む社員は生存の欲求が強いと言えるでしょう。

愛・所属の欲求(Love & Belonging)

 要素:愛、所属

 これは、愛し愛されたい、誰かと一緒にいたい、グループで行動したいといった満足な人間関係の欲求です。愛の欲求は特定の人物との深い関係を求め、所属の欲求は多くの人物との広い関係を求めます。例えば、職場においてチームやグループでプロジェクトに取り組むことを好む社員は愛・所属の欲求が強いと言えるでしょう。

力の欲求(Power)

 要素:達成、承認、貢献、競争

 これは、自分の実力や努力を認められたい、他人に勝ちたいという欲求です。この欲求は、向上心や貢献心、高い成果へのこだわりにも表れます。例えば、与えられた仕事は絶対にやり遂げる社員や常に高い目標を掲げる社員は力の欲求が強いと言えるでしょう。

自由の欲求(Freedom)

 要素:解放、変化、自分らしさ

 これは、人に束縛されたくない、自分のやりたいようにしたいという欲求です。あれこれと指示をされたり、時間やルールに縛られることを好みません。また、人の意見に流されることなく、自分らしくありたいと考えています。例えば、やり方を事細かに指示されるよりも、物事を自分なりに考えたいという社員は自由の欲求が強いと言えるでしょう。

楽しみの欲求(Fun)

 要素:ユーモア、好奇心、学習・成長、創造性

 これは、好奇心や遊び、新たな知識・経験を得たいという欲求です。何かを学んだり創造したりすることに楽しみを見出し、自らの能力向上に励みます。例えば、ユーモアが好きな社員や新しいことにチャレンジすることが好きな社員は楽しみの欲求が強いと言えるでしょう。


 ここで重要なことは、人はそれぞれ欲求の強さが違い、それを満たすために行動していること。そして、他者の欲求は変えることができないということです。そう考えると、他者との様々な違いを認めることができるのではないでしょうか。

 

上質世界

 上質世界とは、私たちの基本的欲求を満たすイメージの世界です。私たちはこの上質世界にあるイメージに自分を近づけていくために、その時々で最善と思う行動を取ります。私たちは上質世界にあるものには強い関心を持ちますが、上質世界に関係のないものには関心を払わないとされています。

 選択理論では、上質世界の3要素として以下を定義しています。

〈上質世界の3要素〉
・ 共にいたいと思う人
・ 最も所有したい、経験したいと思う物
・ 行動の多くを支配している考えや信条

 職場において、仕事を上質世界に入れている人は成果が上がりやすいです。仕事が上質世界に入っていないと、内発的動機づけがなされないので成果を上げることが難しくなります。私たちの上質世界は固定化されたものではなく、常に変化していきます。それでは、どうしたら上質世界に仕事を入れ続けることができるのでしょうか。それは、お客様の喜ぶ顔を見たり、「ありがとう」とお礼の言葉を聞く機会など、仕事は自分にとって基本的欲求を満たすものだと思える経験を意図的に増やすことが必要です。

 

全行動

  ここでは選択理論における人の行動のメカニズムについて説明します。選択理論では行動を「全行動」と呼び、全行動は「行為」「思考」「感情」「生理反応」の4つの要素からなると考えます。「全」とつけているのは、常に4つの要素が行動全体を構成しているからです。

〈全行動の4要素〉
・ 行為:歩く、話す、食べるなどの動作
・ 思考:考える、思い出す、想像するなど
・ 感情:喜怒哀楽などの気持ち
・ 生理反応:発汗、心拍数、呼吸、内臓の働きなど

  

車

 全行動の概念は上の図のように、よく車に例えられます。全行動の4要素が車の4輪をなし、ハンドルで自分の願望(上質世界)へと向かっていきます。エンジン(原動力)になるのが5つの基本的欲求です。ハンドルを切ることによってタイヤを操作しますが、実際の車同様、コントロールできるのは前輪の「思考」と「行為」のみです。後輪の「感情」と「生理反応」は直接制御するのが難しく、「思考」と「行為」に従って変わっていくということを表しています。視点を変えれば、私たちは「思考」と「行為」をコントロールすることで、間接的に「感情」と「生理反応」をコントロールしています。

 例えば急に「怒ってください」と言われても、何もない中で怒りの感情は湧いてきませんよね。憤りをおぼえた過去の記憶を思い出す(思考)などすれば可能かもしれません。また、急に「脈拍を上げてください」と言われても自分で心臓の働きをコントロールすることは不可能です。しかし、運動するなどの行為をすれば脈拍は上がります。また、落ち込んでいる時でもお笑い番組を見るという行為を自分で選択することで、楽しい気分になることもあります。このように、選択理論では自ら行為と思考を選択することによって、自分の全行動を直接的あるいは間接的にコントロールできると考えます。

創造性

 全行動の結果によって求めているものが得られない時、新しいアイディアを生み出す脳の働きが「創造性」です。創造性は脳に蓄積された情報の中からしか発揮されないため、常に情報を得ることが必要です。創造性によって選択される行動はその時の本人にとって最善の行動であり、客観的な善悪などは関係なく選択されます。したがって、自分には理解しがたい方法でストレスを発散する人がいるかもしれません。しかし、「その行動によって、この人は何の欲求を満たそうとしているのだろう」「今満たされていない欲求は何だろう」と考えてみることが相手を理解する有効な手段となります。

選択理論を用いたマネジメント

  ここまで選択理論の基本的な考え方をご紹介しました。ここからは組織の成果と人間関係を両立するためのマネジメントという観点で、選択理論がどのように役立つのかについてご紹介します。

リードマネジメントとボスマネジメント

 企業の経営管理や組織運営のことをマネジメントと言います。内発的動機づけを基盤としたマネジメントを選択理論ではリードマネジメントと呼びます。リードマネジメントでは、社員が仕事によって基本的欲求を充足することができるよう関わっていきます。それによって、社員は内発的に動機づけされ、主体的に仕事に取り組むことによって生産性が向上します。

 リードマネジメントを行っている上司は、過去に起きた出来事や他者の考えはコントロールできないという信念に基づき、そのプロセスに焦点をあてようとします。また、その社員にとって最善の選択をした結果であることを前提に話を進めるため、事実を直視するよう促しますが攻撃的な言葉遣いはしません。常にメンバーが自ら考え、自ら気づいてより良い行動を選択できるよう促すのが特徴です。例えば、「うまくいったところはどこだろう?うまくいかなかったところはどこだろう?」「もし次にやるとしたら、どうしたらうまくいくと思う?」というような対話をします。

 一方、外的コントロールを基盤としたマネジメントのことをボスマネジメントと言います。ボスマネジメントの上司は結果に焦点をあてており、本人を責めたり、脅したりすることによってプレッシャーをかけて改善を図ろうとします。例えば、「なんでこんな失敗をしたんだ?」「次やったらおまえには外れてもらう」といった攻撃的な言葉遣いをします。このような組織では一時的に業績が伸びたとしても、社員は内発的に動機づけられている訳ではないため、そのような状態を長期的に維持することはできません。ゆくゆくは仕事の質が落ち、結果として会社の業績を維持することも難しくなります。

 尚、成果志向の強さと人間関係の重視する程度によってどのような違いがマネジメントに見られるのかを以下の図にまとめます。

マネジメント

 人間関係を重視するあまり成果志向が弱くなっているマネジメントは、甘やかしている状態になります。マネージャーが部下から嫌われることを恐れている状態ですので、マネージャーの意識改革が必要でしょう。
 また、人間関係も成果も重視していないマネジメントは、無関心の状態と言えます。組織全体として何を目指していくのか、理念やビジョンを明確化するところから見直す必要があるでしょう。

良好な人間関係をつくる3つのコツ

 それでは、リードマネジメントを行う上で良好な人間関係を作るコツをご紹介します。これらのコツがうまく回っていることがマネジメント成功の秘訣になります。

相手の基本的欲求が満たされるような関わり方を学ぶ

 相手とコミュニケーションを取る際に、その人の基本的欲求の強い部分が満たされるように関わることは人間関係をうまく進めるコツです。それぞれのタイプ別に見ていきましょう。

  • 「生存の欲求」が強いタイプ

 このタイプの人は安定して着実に仕事が進んでいることや、体と心のバランスが整っていることで満たされます。積極的にリスク回避のための事前準備や打合せを行ったり、上司が自分の不安に気遣ってくれていると感じたりするのも安心感に繋がります。以下のような声掛けをしてみると効果的でしょう。
「新しい○○が始まるけど、何か不安なことはない?」
「最近しっかり休みは取れてる?」

 

  • 「愛と所属の欲求」が強いタイプ

 このタイプの人は、チームや組織内のメンバーと信頼関係が築けているとわかると安心します。自分が他者に必要とされているという実感も嬉しさに繋がるでしょう。縁の下の力持ちであったり、誰かと一緒に力を合わせる仕事で非常に頑張ってくれたりしますので、そういった姿を褒めると効果的でしょう。
「○○さんはチームのみんなに愛されているね。○○さんがいてくれるとチームが明るくなるよ。」
「○○さんは後輩の面倒見がいいね。ぜひ色々教えてあげてほしい。」

 

  • 「力の欲求」が強いタイプ

 このタイプの人は、頑張っているところを褒めてもらったり、誰かに感謝されることで喜びます。自分が組織に貢献したことや何かを達成したという実感が励みになりますので、良い仕事をした時にはその功績が認められていると本人にしっかり伝わるようにすることが大切です。例えば、以下のような声掛けをしてみると効果的でしょう。
「今回うまくいったのは○○さんの頑張りのおかげだよ。ありがとう。」
「こんなに短期間で成果を出すなんてさすがだね。これからも期待しているよ。」

 

  • 「自由の欲求」が強いタイプ

 このタイプの人は自分らしさが尊重される環境や、自分が自分らしく居られる人を好みます。基本的に「自由」という言葉が好きでしょう。したがって最初は手取り足取り指示を出すよりも、満足できるまでしっかりと自分で考えてもらう方が合っています。例えば、以下のような声掛けをしてみると効果的でしょう。
「この案件、まずは自由にやってみて。」
「○○さんはどう思う?あなたの意見を聞かせてほしい。」

 

  • 「楽しみの欲求」が強いタイプ

 このタイプの人は新しいことを知ることができたり、新しいことにチャレンジさせてもらえることで喜びます。そういった好奇心をくすぐる関わり方をすると良いでしょう。また、ユーモアを好むため、仕事の合間にくすっと笑える話をしたり、ジョークを飛ばしたりするのも関係性を縮めるのに効果的かもしれません。
「今度新しいプロジェクトが始まるんだけど、○○さんチャレンジしてみない?」
「今度○○のセミナーがあるんだけど、参加してみない?」

相手から尊敬される人になる

 私たちは上質世界にあるものには強い関心を持ちますが、上質世界に関係のないものには関心を払わないと説明しました。相手の上質世界に入るためには、相手にとって人間的に尊敬できる人でいる必要があります。
 そのためには仕事のスキルだけではなく、勤務態度や人間性の面でも尊敬される行動ができているか振り返ってみることが大切です。例えば、「自分が忙しい時でも部下が相談を持ちかけた時にはしっかりと話を聞き、丁寧に指導する」「感情をコントロールし、うまくいかない時でも冷静に対応する」といった行動が挙げられます。また、それぞれの会社の理念や目指すべき人材像を自分が体現するということも重要です。

仕事を楽しくする

 私たちは内発的動機づけによって、すべての行動を選択しているとご紹介しました。仕事をしている時間が本人にとって楽しいものであることは非常に重要です。ただやらされているのではなく、仕事によって欲求が満たされることで仕事に対するモチベーションを維持することができます。社員にとって会社にいる時間が楽しくなるよう、本人のやりがいや組織に対する貢献を実感できるような工夫ができると良いでしょう。そのためには、本人がどのような部分でやりがいを感じるのかを把握しておく必要があります。組織に対する貢献についても、具体的な数値を示しながらどれぐらい本人の頑張りが反映されているかを伝えることが大切です。

まとめ

 今回は、弊社の理念にもなっている選択理論心理学についてご紹介しました。選択理論は管理職を対象としたリードマネジメントだけではなく、組織におけるあらゆる人間関係の問題解決に役立ちます。選択理論はカウンセリング実践の中から生まれてきたため、実践で役立つ考え方が多くあります。みなさんの悩みに糸口を見出せることを願っています。

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