ティール組織とは、「ティール組織 ―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現―」で提唱された従来の組織とは組織体制も慣行や文化も全く異なった、新しい組織のあり方です。
同書は「Reinventing Organization」という名で4年前に発売され、2018年の1月に日本語版が発売されています。12か国語に翻訳され、20万部を超える売上となっております。日本でも3万部の売上を超えるほどの人気です。著者はフレデリック・ラルー氏で、10年以上マッキンゼー組織変革プロジェクトに従事していました。その中でラルー氏が発見したのは、ピラミッド型組織のトップを務めるリーダーの生活は、静かな苦しみに包まれ、心の奥底に抱いている情熱を発揮できないということでした。
そこでラルー氏は、人々の可能性をもっと引き出す組織とはどのような組織か?どうすればそんな組織を実現できるのか?という問いの答えを追い求め、独立。二年半にわたり、新しい組織モデルを研究し、本書の執筆へといたりました。この記事ではそんな未来型組織であるティール組織の実態について迫っていきたいと思います。
ティール組織は、突然生まれてくるのではなく、組織の発達段階にあわせて成長していきます。ティール組織とは一番右側にある進化型のことを指します。ここではティール組織までの発展段階を見ていくのですが、組織は人の集合体であるため、組織の変化を見ていくには、人の意識がどのように発達していくのかを見ていく必要があります。そのため、ここでは組織の状態と、それを構成する人の意識状態を説明していきます。なお、ラルー氏はインテグラル理論に基づき、各発達段階を色で示しています。
*インテグラル理論とは、ケン・ウィルバーによって唱えられた、人間・組織・社会を多様な視点から統合的にとらえる新しい理論です。その理論では、様々な段階を色で示していました。
組織生活の最初の形態として知られる衝動型組織は、一人の長がその組織を圧倒的な力によって支配しています。そのため正式な階層も役職も存在しません。組織の関心の方向は現在を向いており、現在の利益を求めて活動することもその特徴の一つです。ギャングやマフィアにまだ見られる組織です。
構成員は、力こそすべてで、自己欲求を満たすには他者より強くなければならないと考えます。逆に他者のほう強ければ、降参し、最も力のあるものに従うことで自分の安全を守ろうとします。
・トップが物理的な力で支配する組織
・組織の規模は小さく短期的な思考を持つ
・構成員は自分の欲求のみを考える
順応型組織では、正式な役職や固定化された階層、組織図が明確に定められています。ヒエラルキー型のピラミッド構造をしていて、トップが考え、下の組織の人たちがそれを忠実に実行に移します。その背景には安定を求め、前例を踏襲したルールを徹底的に守る姿勢があります。組織は長期的な視点を持ち、物事を成し遂げるためのプロセスを考えることができます。具体例としては軍隊が挙げられます。
構成員は他者の感情や考え方を意識し、自分の属する社会集団に自分の存在意義を見出し、そこからはじき出されないように自分をうまく適用させようとします。
・秩序だったヒエラルキー型組織
・規模の拡大も可能で、中長期的な思考もできる
・構成員の関心は自己から集団に広がる
達成型組織では基本的なピラミッド型行動は残しつつも、オンラインでつながるグループや、複数の部門にまたがるチームなど柔軟性を残す組織体制となっています。また、実力主義を取り入れているため、誰もがその成果によって上のポジションに行けます。この背景には、意思決定の判断基準が最大の結果をもたらすことにあります。会社のトップが定めた目標を達成するために、戦略を策定し、中期計画を練り、日々の短期的な目標に落とし込んでいきます。その過程で、不要と思われる慣習や前例は進んで壊していき、積極的にイノベーションを起こしていきます。達成型の組織の典型例は、現在多くみられるグローバル企業などです。
構成員自身も自分の人生の目標を自由に追求します。ただ、彼らは物質的な世界で生きており、より大きく、多いこと(たとえばお金を多く稼ぐ、どんどん出世していくなど)が良いことと認識され、その目標を達成するためにまるで機械のように働きます。
・基本的なヒエラルキーは残しつつも柔軟性がある組織
・長期的な目標達成に向け、イノベーションが起きる
・構成員は物質的な成果を求め、組織のため、自分のために猛烈に働く
多元型組織は達成型組織に見られるようなピラミッド型を残しています。しかし、上司、部下の関係は存在するものの、トップダウンによる意思決定プロセスがあるのではなく、現場の人々に裁量があるボトムアップ型の意思決定プロセスを採用しています。この組織を支えるのは、社員に共有された、企業の価値観と存在目的で、社員全員がその目的を叶えるように意思決定をしていくと信用されています。そしてその目的とは、株主だけでなくすべてのステイクホルダーを幸福にすることだと捉えられています。具体例としては、サエストウエスト航空が挙げられており、自らの創意工夫で乗客の抱えた問題に向き合う権限を持つグランドスタッフのことが紹介されています。
構成員は、達成型組織の物質的な目標を達成するかどうかより大事なことが人生ではあると考えます。あらゆる考えは等しく尊重されるべきであるという基本スタンスのもと、物事を組織への帰属意識と調和を基に判断します。
・ピラミッド型を残しつつもボトムアップによる意思決定プロセスを採用
・自社の物質的な成功より、ステイクホルダー全員の幸福を追求する
・構成員は人々の感情に敏感で、協調的なつながりを意識する
ティール組織では、ピラミッド型の組織構造は見られず、社員一人ひとりが主体性を持つ自主経営組織です。その組織構造は会社の事業環境によって形態が変わりますが、「ティール組織」では、その構造例として3つ挙げています。
組織が上下関係のない多数の少人数チームによって構成されており、チーム間では必要以上に調整をする必要がないです。チーム内では、社員一人一人が自分の役割とほかのメンバーへの約束(コミットメント)を決めます。各チームが予算を決め、採用から育成など幅広く自律的にやります。
*円がそれぞれチームを表します。
図は「ティール組織」p.519を参考に著者作成
パラレル構造と同様に投資予算や財務結果はチームで作られます。チーム内で役割やコミットメントが話されることはないですが、同僚同士の一対一の話し合いの頻度が多く、同僚間でコミットメントが結ばれます。
*点線の円がそれぞれチームを表し、結合点は個人を示します。
図は「ティール組織」p.521を参考に著者作成
パラレル構造と似ており、チームは主体的で自立しています。すべての決定事項はチーム内の会議で話されます。パラレル構造との違いは、この構造では各チームが並列して働くのに対し、ホラクラシーでは入れ子構造を取り入れている点です。つまり、チームの中に小さいチームがあったり、一人が複数のチームに属することもあり得ます。詳しくは以前の記事、ホラクラシーの組織体制と運営方法をご参照ください。
円がそれぞれチームを表します。個人は円の中に存在し、人によっては複数のチーム(円)に属します。
図は「ティール組織」p.521を参考に著者作成
構成員は、自分が何者で人生の目的は何かを自覚しています。物事を意思決定する際は外的要因(他人がどう思うかなど)によらず、自分の内面に照らし合わせて判断します。彼らは「大志を抱いているが、野心的ではない人」と形容されています。
- ピラミッド構造がない
- 組織の目的自体も変わっていく
- 構成員は自分の人生目的に従い、意思決定をする
ラルー氏は実際に多くの企業を調査していく中で、ティール組織は3つのいずれか、またはそれを組み合わせた特徴を見つけました。この特徴を同書ではブレイクスルーと表現しています。
ティール組織1つ目のブレイクスルーは社員が自主経営をすることです。原則として、主体性を持ったメンバーそれぞれが自分の判断で意思決定を下していきます。意思決定を自分たちで下すためにも、必要に応じて、チームでミーティングを開き、他者から助言を仰ぐことはできます。また、意思決定には十分な情報も必要なことから、会社の情報は社員にオープンにされます。
セルフマネジメントという言葉の通り、自分をマネジメントするのも自分です。そのため、例えば、上司がおらず、職務記述書や肩書がないということもよく見られます。経営陣がいないということもしばしばで、必要な予算を自分たちで決め、給料も自分たちで決めます。
自主経営を導入するには会社側としては社員を信頼することが何よりも大切です。信頼をもって裁量を与えれば、そのチームで目標を決め、目標を達成しようとします。そこでは、たとえサボろうとするチームメイトがいても、ほかのチームメイトが注意を促し、トップダウンの統制よりもはるかに効果的に統制が図られます。
ティール組織2つ目のブレイクスルーは、会社は目的によって意思決定をし、その目的も進化していくものであるということです。ここでいう目的は、企業の存在理由のことを指します。達成型の組織ではこれが、物質的な成果であり、より大きく、より多くを目指します、シェア一位になるなどのゴールです。この背景には、他社は自社を脅かす存在で、自社は生き残りをかけてビジネスをすることになります。
ところがティール組織では、生き残ることに執着せず、社員全員が自身の人生の目的を考えるのと同じように組織の存在目的、使命を考えます。この時、個人の存在目的と組織の存在目的が共鳴するとき人は天職と感じ、信じられないような力を発揮します。そしてこの組織の存在目的は、固定化されたものでなく、変化していきます。
会社の存在目的を重視する例として、「誰も座らない椅子」という制度がしばしばティール組織に見られます。会議の際に、「会社の存在理由」を代表する椅子として空席を用意し、組織の存在目的に声を傾けたり、会議参加者がその席に座り、組織の声を代弁したりすることができる制度です。
ティール組織、最後のブレイクスルーは、社員が自分らしさを全て会社に持ち込めるということです。現在企業に勤める多くの人は、仕事人としての自分とプライベートの自分が一致することは少ないです。このことは、職場では仕事用の仮面を身につけ、職場における期待に応えようとしていることが挙げられます。その背景には本来の自分をさらけ出すことで、会社で非難されるか馬鹿にされるかといったことを恐れているためです。
ホールネスをもつティール組織では、社員同士が自分の本来の姿を互いにさらけ出し、それを認め合います。そうすることで、同僚との関係でも職場をつまらなく、非効率にしていたものも多くが消えていきます。会社では、互いに限られたポジションを奪い合う昇進の制度もなく、社員がそれぞれ自分らしく、自分の使命を追求できます。
そういった全体性をさらけ出すために、いつもの自分を出しやすいような職場を作る組織も多くあります。たとえば、職場に子供を連れて来たり、ペットである犬を連れてくるのを許可している会社があります。また、自分らしさを見つけるために瞑想やヨガのクラスを社員のために設け、自己内省の機会を与えている会社もあります。
ティール組織までの5段階といった形で、先ほど説明しましたので誤解を与えてしまったかもしれませんが、ティール組織がその前段階の組織より優れているわけではありません。組織が機能するかどうかは企業を取り巻く環境によってかわります。たとえば内乱などが起きている場合、自分たちを守ろうとする衝動型の組織が一番機能したりします。
すべての企業は少なからず、いろいろな組織段階の色を持っています。問題はその濃淡です。ティール色が強いながらも、順応型の側面を残していることも充分に考えられます。このことは組織の構成員にも当てはまります。ティール組織までの5段階、のところでは組織の特徴と構成員の特徴を述べさせていただきましたが、その構成員も決して一つの組織のカラーだけを持っているのではなく、様々な組織のカラーがあるのです。
ティール組織になるための決められた方法というのは存在しません。「ティール組織」でもたくさんの企業事例が挙げられましたが、それらの会社はティール組織になることを目標にして組織作りを行っていたのではなく、自分たちの理想的な組織を目指していた結果、ティール組織に取り上げられたのです。そのため、どの会社も行っている慣習や文化は異なりますし、それぞれの会社にあった組織作りがあります。
最後に、「ティール組織」に取り上げられた会社の具体的な事例をご紹介させていただきます。
ビュートゾルフは非営利のオランダ最大の地域密着型の看護師の集団です。病人や高齢者の在宅ケアサービスをしています。1チーム10~12名ずつで、チームごとに発生する管理業務全般を自分たちで取り組み、日々直面する問題にも対処していっています。上司やエリアマネージャーはいません。ただ、売上目標や収益責任、意思決定権のないコーチという存在がいて、その人たちが、必要に応じてアドバイスを与えています。
日本でも有名なパタゴニアは、環境問題の改善に本格的に取り組んでいることでも有名です。たとえ、コストは3倍以上かかっても農薬を使った従来のコットン栽培からオーガニック・コットンへの栽培に切り替えました。また、先進国では、衣服が十分にあるにもかかわらず多くの人が新しい衣服を買い続ける状況を打破すべく、「このジャケットは買ってはいけない」という広告を出し、修繕・再利用を促しました。
パタゴニアの職場には「子供発育センター」が運営されており、職場にも子供の声が響いてきます。仕事中に親のデスクに来る子供もいて、家庭の空間を職場に持ってこれるような工夫がされています。
モーニングスターはアメリカのトマト加工および運送分野で圧倒的なシェアを占めています。同社では、トマトの収穫期によって雇う労働者の数が大きく変異します。閑散期には400人、収穫期には2400人と変わりますが、いつでも、マネージャーや人事部、購買担当もいない「ビジネスユニット」と呼ばれるチームが23あり、各チームの社員が会社の資金を使って高価な機器を購入するなど、ビジネス上の意思決定が誰でもできます。ただ、購入するときに、それによって影響を受ける人や経験豊富なアドバイザーに助言を求めることが必要です。当然、彼らは社員に何かを強制することはできず、それはルールとして明示されています。
オズビジョンでは社員の人柄を会社全体で共有できるような仕組みが2つ取り上げられました。
1つ目は「Good or New」と呼ばれる短時間のミーティングを通じて、その日にすることを確認しあいます。一体の人形がメンバー間でまわされ、それを保持している人は仕事中や仕事外でのことに限らず、何か新しいことかよいできごとをみんなで共有します。
2つ目は「Thanks Day」と呼ばれる制度で、どの従業員も毎年1日「Thanks Day」と呼ばれる休日をとれます。従業員が、その日の間に親でも同僚でも友人でもいいので誰かに感謝をするための休日で、会社からは現金2万円を支給されます。そして、誰に、何を、どのようにしたかをシェアします。
(なお、ここで挙げられている2つの制度は、現在は行われていないようです。詳しくは以下のブログをご確認ください)
「ティール組織に書かれていないこと」オズビジョンの社長のブログ
ここまで、ティール組織になるまでの組織の変遷図や3つのブレイクスルー、ティール組織と聞いて抱きがちな誤解や「ティール組織」企業の事例を中心にティール組織の基本情報を振り返ってきました。皆様の会社では現在、どの段階の色が濃くいでしょうか?ティール組織に見られる特徴は皆様の会社でも見られるでしょうか?もちろん、皆様の置かれている状況によっても異なるとはございますが、本記事が皆様にとって、新しい組織作りを考える、もしくは目指すうえで少しでもお役にたてば幸いです。別記事では、本記事でも触れたホラクラシーについても取り扱っております。こちらの記事も是非合わせてご参照していただければと思います。
ホラクラシーの組織体制と運営方法「奇跡の経営」から学ぶ、ホラクラシーを導入するべき理由」
「ティール組織」にも取り上げられた、株式会社オズビジョンの代表取締役社長 鈴木 良様にインタビューをさせていただきました。オズビジョンの企業理念策定の背景から理念浸透までの道のり、今後の展望まで詳しくお話を伺ってきました。是非ご覧ください!!!
「ティール組織」に載ったオズビジョンの組織作りとは?【インタビュー】