インバスケットの効果と研修で抑えるべき3つのポイント

インバスケットとは、架空の人物となり、制限時間内にできるだけ多くの案件を処理するワークです。このインバスケットは、企業研修のワークとして吉野家ホールディングスなどが導入しています。様々な観点から問題を捉える能力と、即時に決断する判断力が養われるアクティブラーニングとして、昨今注目を集めているワークです。今回は、このインバスケットの効果と研修として実施する際に抑えるべき3つのポイントを紹介します。

インバスケットとは

インバスケットとは、限られた時間の中でより多くの案件を処理するワークです。もともとは、1950年代に訓練の結果測定をするためにアメリカ空軍が開発しました。「インバスケット」という言葉は、大きな箱の中に未処理の案件が雑多に詰め込まれている状態を意味しています。そのため、ワークでは数多くの案件が用意されており、優先順位を付ける能力と、素早く処理していく能力が求められます。

そんなインバスケットの特徴は、大きく3つにまとめることができます。3つの特徴とは、以下の通りです。

インバスケットの特徴

・架空の人物になりきる
・時間設定に対して処理する案件が多い
・絶対的な正解が存在しない

では、それぞれについて説明していきます。

架空の人物になりきる

インバスケットでは、とある架空の人物になりきり、その人の立場や役職に適した役割を考えて案件を処理していきます。いつもとは全く違ったステータスと視点で案件に取り組むことで、参加者の視野・観点の多角化を促すことができます。上司が部下の目線で取り組むこと、部下が上司の目線で取り組むこと、営業がマーケティングの目線で取り組むことによって、普段は得られない気づきが得られると言われています。

時間設定に対して処理する案件が多い

インバスケットのワークでは、処理しなければいけない案件が膨大に積まれたケースを想定するのが一般的です。ですので、インバスケットではすべての案件を処理できるかどうかを重視していません。案件を手当たり次第に処理するのではなく、どの案件から処理していくべきかを判断し、優先順位の高いものから処理することが求められます。また、案件の中には他の人に任せるべきものも存在します。仮想のステータスに基づいて、部下や上司に案件を振るのも選択肢の一つです。

絶対的な正解が存在しない

日本の企業研修では、正しい知識をインプットして、ケーススタディやロールプレイでアウトプットするものが一般的です。ですが、インバスケットを使ったワークには、絶対的な正解が存在しません。10人の参加者がいれば、10通りの正解が存在します。つまり、インバスケットのワークで身に付くのは、仕事についての正しい知識や正しいスキルではなく、案件を処理するまでの思考プロセスと自身で判断を下すという経験です。学ぶ内容も得られる経験も人によってバラバラです。

インバスケットが注目されている理由

昨今の日本では、労働生産人口の減少が進んでおり、多くの企業が人不足に悩んでいます。これを受けて採用競争は激化しており、特に優秀な人材の採用においては熾烈を極めています。実際に、2019年春入社の新入社員の大学生求人倍率は、1.88倍と7年連続での上昇を見せています。また、従業員300名以下の企業における求人倍率は、9.91倍と過去最高を記録しました。

ー日本労働生産性本部 労働生産性の国際比較よりー

このような人不足の状況下で、採用と同じように重要視されているのが「労働生産性」です。社員数の増加に大きな期待ができない今、社員一人ひとりの労働生産性を向上させることが求められています。

2017年の日本の労働者一人当たりの労働生産性は、84.027ドルとされており、OECD加盟36か国中21位という結果でした。1位のアイルランド(164.795ドル)や、3位のアメリカ(127.075ドル)と比較すると、日本の労働生産性には大きな改善の余地があることがわかります。そのため、現在では多くの企業が労働生産性の向上を目指しています。労働生産性の高低には、労働者の主体性や企業への貢献意欲が関係していることがわかっており、自分の意志と判断で業務にあたる姿勢が必要だと言われています。

ーリクルートワークス研究所 大卒求人倍率調査よりー

インバスケットのワークでは、誰かの支持を仰ぐのではなく、自分で業務に優先順位を付けることが必要となります。そのため、自分の意志と判断で業務に取り組むための良い経験となります。インバスケットで得られるメリットは他にもありますが、主体性や自主性を育むことができるという点は、多くの企業がインバスケットのワークに取り組んでいる理由の一つと言えます。

インバスケットで得られる効果

では、インバスケットによって得られる効果についてご紹介していきます。インバスケットで得られる主な効果は、以下の通りです。

・問題解決力の向上

・判断力と決断力の向上

・主体性と自主性の醸成

・業務に対する視点と観点の多角化

・優先順位を設けるスキルの習得

では、それぞれの効果について解説していきます。

問題解決力の向上

直面している案件を素早く処理していくためには、課題の本質を見抜く力や、現象に対して仮説を立てて検証する力が必要となります。また、特定した本質的な課題を解決するためには、計画する力や施策の効果性を検討することが必要となります。インバスケットのワークでは、この課題発見から解決までのプロセスを自分で行う必要があります。ですので、インバスケットのワークを体験することで、問題解決力の向上が期待できます。

判断力と決断力の向上

短い制限時間の中で直面している課題を解決するためには、手元にある情報からベストと思われる処置を判断し、決断することが必要となります。ワークで想定される状況では、職場に自分しかいないケースなどが多く、判断と決断を誰かに委ねることはできません。上司や同僚に判断や決断を任せる傾向がある人にとって、インバスケットのワークは自分で判断を下す良い経験となります。インバスケットの特徴である「架空の人物になりきる」という点は、失敗に対する不安や恐れが強い人でも参加しやすいものにするという意図が込められています。

主体性と自主性の醸成

インバスケットのワークでは、ある程度の責任を負っている人物を想定するのが一般的です。例えば、アパレルショップの店長やWeb広告会社の営業部課長など、周りから判断を仰がれる立場を想定します。判断を仰がれる立場にあるということは、滅多なことではない限り、自身で対応する必要があります。そのため、会社方針や状況に合わせて、自分ならどのように案件を処理するかを考える必要があります。指示を待ち、判断を仰ぐのではなく、自分で考えて行動するという体験をすることで、主体性と自主性の醸成が期待できます。

業務に対する視点と観点の多角化

インバスケットでは、参加者が普段担っている役割と全く違う役割を体験することができます。それによって他部署・上司・部下の理解が進み、普段の業務でも他者視点で物事を考えることができるようになります。他者の動きを予測・理解できることで、組織のより良い連携を生み出すことも期待できます。例えば、営業部の人がマーケティング部の役割を体験することで、マーケティング部の業務理解が深まったとします。それによって、営業中に得た情報をマーケティングに提供したり、商品の打ち出しについての相談をするといった連携が生まれる可能性があります。また、一緒にワークに参加している人の判断基準や案件の処理方法を聞くことで、今までになかった観点に触れることもできます。

優先順位を設けるスキルの習得

インバスケットでは、時間内にすべての案件を処理できないケースが一般的であり、案件に優先順位を付けることが必要となります。ですので、インバスケットのワークでは、時間意識の重要性や優先順位を付けていくことの重要性を実感することができます。また、そのスキルを習得することで、普段の業務でも優先順位を意識した高い働き方が身に付きます。

インバスケットのワーク例題

次に、インバスケットのワークの例題をご紹介します。

状況

あなたは新宿に本社を構えるWeb広告会社の人事部社内教育課課長の伊藤さんです。前任の田中さんが急病で入院することとなり、急遽あなたが後任を務めることとなりました。あなたはこれまで、Web広告コンサルティング部に所属しており、取引先を持ちながらもコンサルタントの育成に取り組んでいました。

人事異動は、5月10日付けで発行されます。内示は4月20日に受けていましたが、取引先とのやり取りや案件の引継ぎとゴールデンウィークにより、今日まで人事部に顔を出せませんでした。現在はゴールデンウィーク明けの5月7日朝6時です。今日の8時からお台場で実施する新入社員研修に参加することになっており、1時間で未処理の案件に取り組もうと出社しました。

伊藤課長

お疲れ様です。

1か月後に控えております次世代リーダー研修ですが、田中さんに代わる講師を佐藤リーダーと高橋課長のどちらにお願いしようか決めかねております。どちらも日程の調整は可能だとのことです。つきましては、伊藤課長とご相談したのですが、お時間いただけますでしょうか?

候補のお二方の経歴は、送付の資料にまとめてありますので、ご確認いただけると幸いです。

退職願

私儀、鈴木は一身上の都合により、20○○年5月末日をもちまして、退職させていただきたくここに願い申し上げます。

鈴木

伊藤課長

本日実施の新入社員研修で使う備品が会場に届いておらず、確認したところ配送先を間違えていたようです。

伊藤課長が今日の朝本社にいると伺ったので、本社から必要な備品を持ってきていただけますでしょうか?

必要な備品は、メールにて共有いたします。

このように、インバスケットでは会社情報・役職・経歴・状況・日付・処理に使える時間などが指定されており、その条件を踏まえたうえでタスクに取り組みます。今回は例題として3つの案件をご紹介していますが、実際のワークでは十数の案件が溜まっているケースに取り組みます。

インバスケットの研修で抑えるべきポイント

インバスケットは特徴のあるワークであるため、企業研修として実施する際にいくつかの注意点があります。そこで、インバスケットを企業研修として実施する際のポイントを最後に紹介していきます。

・楽しい研修で終わる可能性がある

・講師のファシリテーション力が鍵となる

・研修の成果が参加者の能力に左右される

では、それぞれのポイントについて解説していきます。

楽しい研修で終わる可能性がある

インバスケットは、参加者が主体的に取り組めるアクティブラーニングです。そのため、知識のインプットやケーススタディがメインとなる研修よりも参加者の興味・集中力を引き出しやすい傾向があります。ですが、その反面で「ただ楽しいだけの研修」になる可能性があります。「楽しい」以外でも、「いい経験になった」「刺激を受けた」といった感情の高揚で終わってしまうのは、非常にもったいないと考えています。せっかく時間とお金をかけて行うのであれば、実際の現場に一つでも二つでも学びを持ち帰ってもらえるように、研修の目的とゴールを具体的に設定して実施することがポイントです。

講師のファシリテーション力が鍵となる

インバスケットは、ワーク自体に正解がありません。そのため、参加者がどのような回答を出すのかを事前に想定しておくことはできません。つまり、その場に出てきた内容や参加者の傾向を把握して、それに適したファシリテーションが必要となります。設計段階で意図していた目的とゴールに着地できるかどうかは、講師のファシリテーション力にかかっています。

また、優先順位付けや課題抽出についてのアドバイスを行う講師は、経験と実績を積んだ人に依頼するのがポイントです。講師の経験と実績が大きいほど、参加者への影響力を持ちやすく、ファシリテーションも進めやすくなります。本来のファシリテーションでは、行く末を参加者に委ねることも大事だと言われています。ですが、研修においては意図したゴールがあるので、影響力を持ちやすい人に講師を依頼することをオススメします。

研修の成果が参加者の能力と参加意欲に左右される

インバスケットは、参加者主体のワークです。そのため、参加者の能力や参加意欲が研修の成果に大きく影響します。ただ、能力はフレームワークの紹介やレクチャーによって埋め合わせることができるので、大きな問題にはなりません。ですが、参加意欲がないことは、参加者主体のワークにとって致命的となります。それを避けるためにも、研修に参加する目的や研修で得たいことなどを参加者に考えてもらうことが重要です。事前課題や研修の最初の時間を活用して、参加者に参加する動機を明確にしてもらうことがポイントとなります。

まとめ

インバスケットは、生産性や主体性が強く求められる現代において、その両方を獲得するのに有効なワークです。ワークに正解がないため、講師には業務での経験値やファシリテーションのスキルが強く求められますが、多くの企業にとって有用なワークとなります。もし、組織の生産性を高めることや、社員の主体性を高めるといった課題に直面している方がいましたら、検討してみてはいかがでしょうか。人材育成と組織開発に携わる方にとって、この記事が少しでもお役に立ったならば幸いです。

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運営企業

アチーブメントHRソリューションズ株式会社

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