コラム

Column

大杖正信のモチベーションエンパワーメントメッセージ

講師歴25年を誇る大杖正信が、朝礼のネタなどでも使えるモチベーションを高めるメッセージをご紹介します。

真のプロフェッショナルとは何か

真のプロフェッショナルとは何か?

その問いに対し、非常に最適な出来事がありました。
それは2009年1月に、アメリカはニューヨークで起こった航空機事故「ハドソン川の奇跡」です。
それでは、この航空機事故で機長がとったプロフェッショナルな対応とは何だったのでしょうか?機長の考え方とは?


2009年1月15日、アメリカ・ニューヨーク市。
マンハッタン上空850メートルでエンジントラブルを起こした「USエアウェイズ1549便」は、ハドソン川に不時着水。
乗客乗員全155人が無事に生還したことから、「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、世界中のメディアがこのニュースを報じました。

「5つの奇跡」

1. 双発機で両方のエンジンが止まる事態は可能性としてかなり稀
2. 離陸直後のため高度が低く、難易度が高い
3. 川への着水の成功例は、ほぼない
4. 人口密集地での緊急着陸で死者なしは「信じられない」
5. あまりにもレアケースなので、パイロット研修でも教材として取り上げられるほど

このUSエアウェイズ1549便で、機長を務めていたのが、チェスリー・“サリー”・サレンバーガー氏(サリー機長)。
42年の経歴によって導き出されたとっさの決断から、乗客乗員へ的確な指示を出し、着水後機体が沈むまでのたった24分間で全員を避難させた行動力…。

サリー機長とは一体どんな人物なのか?
類稀なるリーダーシップはどこからくるのでしょうか?

事故での彼の行動をひも解くと、真のプロフェッショナルとは何かが見えてきます。


1. 冷静かつ、的確な判断力

USエアウェイズ1549便は、機体が鳥の群れとぶつかる“バード・ストライク”により、両エンジンが同時に推力を失いました。

このような両エンジン同時のエンジントラブルはきわめて稀だといいます。
機体の高度は下がっていくが、大都会マンハッタンに大きな空き地は存在しません。

サリー機長はハドソン川への不時着水を決断します。
着水の直前、サリー機長は「こちら機長。身構えて、衝撃に備えて」と、コクピットから客室へ短い言葉で指示を出しました。
機体への衝撃と、機体が落下していく感覚の中、事態が飲み込めずにいた乗客たちでしたが、その指示に従いました。

もしも事前にトラブルを伝えていたら、機内は大混乱を極めたに違いありません。
彼の指示ひとつをとっても、まさに的確な判断だったのです。

また不時着水後、なるべく早く救助してもらえることを意識して、船着き場の近くに着水させたことも、彼は計算していたのです。

エンジントラブルが起きてから、状況を把握し、あらゆる選択肢を吟味し、決断し、着水させるまで、わずか208秒の出来事でした。
それは、管制官との音声記録として残されています。
鬼気迫る中での冷静な判断が、乗客乗員を救ったのです。


2. 成功への揺るぎない自信

もしあなたがチームを率いるリーダーだった場合、前例のないトラブルに見舞われたとき、成功する自信が持てるでしょうか?
ほとんどの答えは「No」でしょう。

過去、水上での緊急胴体着水の成功率は限りなくゼロに近く、ほとんどの場合機体が大きく破損しています。
驚くべきは、これほどまで大規模で、前例のない事故であるにもかかわらず、サリー機長は「全員の命を救う自信があった」と話していることです。
サリー機長は「常に、緊急事態に置かれた自分を想像していた」と語っています。
日々イメージトレーニングを重ねていたというのです。

また、日頃から過去の航空機事故の事例を徹底的に分析、独自に研究していたとも話しています。
パイロットとしての42年間の経験と、彼の勤勉さがもたらした、「成功への自信」こそが、全乗員乗客を救うことになったのです。
リーダーの確固たる自信が、メンバーの安心感と、チームの成功率を高めることにつながったのです。


3. プロとして、最後まで成し遂げる責任感

ハドソン川に不時着水したUSエアウェイズ1549便は、機体後部からすぐに浸水が始まりました。
川へ着水したことを知った乗客たちは、足元の浸水に気づいてパニックとなります。
前方出口から脱出を開始すると、乗客たちが出口に押し寄せ、さらなるパニックとなりました。
真冬のニューヨーク、外気温はマイナス6度と寒かった。

サリー機長自らも、「上着を着て、立ち止まらずに前に進んでください」「荷物は持たずに」と客室で乗客に指示を出し、脱出のための指揮をとりました。
客室乗務員と副機長を脱出させたあと、ひとりも残っていないことを確認してから、サリー機長は、最後に脱出したのでした。

しかし、これで仕事が完了したわけではありません。海上保安官や、フェリーに救助されたあとも、サリー機長の気がかりは生存者の数でした。

病院へ搬送される際に「わたしの仕事はまだ終わっていない」とその場を離れることを拒んだといいます。
その後、サリー機長は155人全員の命が救われたことを知ります。
このとき、初めて彼に安堵が訪れたのでした。最後まで職務を全うする責任感こそ、彼のプロ意識の高さを物語っています。


4. ベテランと呼ばれてもなお、訓練や備えを怠らない

サリー機長は手記「機長、究極の決断-『ハドソン川』の奇跡」の中で、彼のパイロットとしての歩みと、事故の一部始終を明かしています。
本書には、サリー機長がかつて米軍に入隊し、パイロットとして訓練を重ねてきた過去も記されています。
たとえベテランと呼ばれる経歴を重ねていても、決して過去の訓練を忘れることはないのです。
その後の訓練も怠らない。それは、パイロットとしての仕事を全うしているということです。

全員を奇跡的に救ったサリー機長を、世界中がヒーローと賞賛しましたが、彼は常々こう言っていました。

「わたしは、やるべきことをやったまでだ。訓練を怠らないこと、乗客を守ること、すべてはパイロットの義務である」



5. メンバーへの信頼と誇り

あなたの職場のリーダーは、あなたを信頼していると思いますか?
そして、あなたが組織のリーダーの場合、メンバーひとり一人を、心から信頼しているでしょうか?
サリー機長は、事故を振り返り、「副機長、客室乗務員ともに素晴らしいメンバー」と仲間たちを讃えました。
コクピットからの指示を受けた客室乗務員3名は「身構えて!頭を下げて!姿勢を低くして!」と繰り返し声をあげていたといいます。

その声はコクピットにいるサリー機長にも届き、「彼女たちが、プロとしての職務を全うしてくれているとわかった。
その声が、わたしに落ち着きと元気を与えてくれた」と、手記の中で当時の心境を語っています。
乗務員全員のプロ意識とチームワークを感じながら、メンバーへの信頼が揺るぎないものになっていたのです。
サリー機長は、全員の救命に成功したことを、自らの功績だとは思っていません。
「誰がなんと言おうと、あれはチームプレイだった」と述べています。

大きな試練を乗り越えるとき、メンバーを信頼し、リーダーもまた「チームの一員である」という認識が、結束力を高めたと言えるでしょう。



2001年9月11日、あの「アメリカ同時多発テロ」が起きました。
未曾有のテロ事件に見舞われ、人々に不安が広がるニューヨークで、乗客乗員全155人が救われた「ハドソン川の奇跡」。
これは、“飛行機事故=テロ”というイメージが暗く根付いてしまったニューヨークで、しばらくぶりの明るいニュースとなったのです。
乗客たちは脱出の際、命の危機にさらされパニックに陥るものの、誰もが協力し合ったと、のちに当時の状況が報道されました。

岸辺のフェリーターミナルから人々を助けようと駆けつけた船が14隻、救助にかかった時間は、わずか24分間。
皆一丸となって救助にあたりました。
9.11の事件があったからこそ、「みんなで乗り越えていこう」という空気がニューヨーク全体にあったのです。

そして、全体の指揮をとったサリー機長。

個々の力をまとめて引っ張っていく彼の真のプロショナルと呼べる姿こそ、時代が求めるリーダー像ではないでしょうか?



大杖正信

大杖正信
著者:大杖正信 アチーブメント株式会社 エグゼクティブトレーナー
Profile
アチーブメント株式会社エグゼクティブトレーナー。マネジメント研修、コーチング研修などを中心に講師を務め、年間の研修日数は200日を超え、リピート率は100%を記録。トレーニング歴25年のベテラン講師である。
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